illustration: Shogo Sekine

《東京#CODE》人生の#リセット& #リスタート


 知人のぼくのりりっくのぼうよみ(以下ぼくりり)という20歳のミュージシャンが、今年の7月に突然ツイッターで「天才辞めます宣言」をしました。メジャーデビューは3年前。アルバムも4枚目を発売して、CMや番組タイアップなども連続で決まりまくり、単独ライブもこなすなど、まさに順風満帆の今年、彼が出した決断が「ぼくりり辞職」。このツイートに端を発して、ファンとの間でちょっとした炎上騒ぎに。「辞めないで!」というファンの声も圧倒的にあるなか、彼の決心は固く、2019年1月末のライブ「葬式」をもってぼくりりとしての活動は終了。平成生まれの彼に、「もったいない!」というのは、やはり私が昭和生まれだからでしょうか?

 実際に渦中の彼に会うと、いたって健康的で、むしろ晴れやかな表情。確かに16歳でネット界でデビューして、今まで「天才、天才」と言われ続けてきたことは、少なからず彼にとっては重圧だったのかもしれません。「辞職」したところで彼はまだ20歳。人生はこれからです。

 やめる人がいれば、復活する人もいます。フィギュアスケートの髙橋大輔さんは、引退宣言して4年のブランクの後に、先日西日本フィギュアスケート選手権で見事に優勝。その演技のビデオを見て、感動してしまいました。この選手権が神戸で開かれている頃、羽生結弦くんは世界の舞台で自己最高得点で優勝。同じリンク上で戦っていた2人が、片や世界の最高峰を目指し、片や再スタートという距離感はあれど、スケートに対する熱量に変わりはありません。32歳での再スタートはどれだけ身体に負担なのか。髙橋選手の笑顔と、「やっぱり自分にはスケートが必要なんです」と言ったときの輝く表情、それを応援するファンたち。なんか目頭が熱くなりました。人ってやっぱり居場所が必要なんだと思うのです。勇気ある復活も実に今っぽい。

 20歳のリセット、32歳のリスタート。人生ずーっと休みなく同じ道を歩み続けるのは至難の業です。かつて終身雇用が当たり前だった日本では、安定した会社に入社して、家族を持ち、家を建て、定年後も保証された一本道が理想的な人生だったかもしれません。そうした世代にとっては20代で仕事をやめたり、会社に入らなかったり、就職しない選択をすることがとても理解しづらいかもしれません。だけど、長い人生で紆余曲折は当たり前。立ち止まれる余裕があるほうが、行き詰まって病気になったり前に進めなくなったり、ひいてはパワハラや過労死などをするより、ずっと健康的なのではないでしょうか?

 以前行ったメルボルンで見つけたエシカル雑誌にこんな言葉が書いてありました。「RETHINK( 考え直す)、 REDUCE( 減らす)、 RECYCLE(リサイクルする)、REUSE(使い回す)。共通する"RE"という接頭辞。2010年代も終盤の今、地球上の限りある資源、時間、空間などの使い方を変えようという象徴が"RE"です。そういう意味ではリセットやリスタートはとても今らしい動き。ゲーム世代たちの、人生100年時代に固定観念から解き放たれて、自分らしい人生設計を考えること。自分のスピードで個々が歩めたら、それがいちばんのハッピーだもん。

THIS MONTH'S CODE

#ぼくのりりっくのぼうよみ

2015年デビュー前はニコ動に動画を投稿して有名に。高校時代から音楽の才能を発揮。現役の大学生(休学中)。

#髙橋大輔

引退宣言した後、ダンスの公演やテレビ出演など多方面で活躍。そのときの経験で彼の演技力に磨きがかかったのも、リスタートによかった。

#メルボルンで見つけたエシカル雑誌

『Junkies Magazine』はローカルなリサイクル精神をもとにつくられた雑誌。エコなライフスタイルを提案している。






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