illustration: Shogo Sekine

《東京#CODE》#街の居酒屋が なくなっちゃう問題


 渋谷の居酒屋「富士屋本店」の閉店は私の周りでもかなりざわついていました。居酒屋プロの知人、モデルのやっこちゃんこと倉本康子ちゃんが「東京で一番、いや日本で一番かも」と言う老舗。立ち飲みなのに女子も大勢押しかける、この渋谷の名店が去る10月30日をもって閉店になりました。ここのハムキャ別(ハムキャベツ)やブリカマは、ほんと美味しかった。閉店間際は毎日が行列。渋谷サラリーマンの聖地でありました。壁に貼ったポスターに「渋谷の再開発事業のため、閉店いたします」との言葉。な、泣ける…。その富士屋本店の前の「あおい書店」も、同様の理由で10月末で閉店。渋谷駅前のあの工事を見ればわかりますが、周囲すべてがザーッとブルドーザーで押しつぶされるように閉店の嵐。学生時代より渋谷に通って、本も映画もアートもクラブも、飲み屋も、ここで育った私にとってはまるで身をもがれるような気持ちです。

 もちろん、懐古趣味だけでなく、変わる風景にワクワクもするのですが、新しく建つビルがかっこよくなかったり、大好きだった店の後がコンビニやチェーン居酒屋に替わったりすると、これまた悲しくなります。

 あるレストラン経営者の友人と話していると、今や個人で飲食店を開くのはかなり厳しいのだそう。「だって仕入れ先も仕入れの量も、賃料、施工から人件費まで、個人だと無駄が多いんですよ。いいものを出そうとすれば利益なんてほとんど出ない。それが現実」なんだそうです。「脱サラでレストランなんて無謀」と言い切ります。なるほど。私が好きな親子丼のお店や美味しいお蕎麦屋さん、おまんじゅう屋さんも、実は経営が大変なのかもしれません。また大将が病気になったりすると、代替わりの人がいなくて、泣く泣くお店を閉じることもあるとか。

 街の個人食堂は、日本の食遺産だと思います。そんな食堂には行列ができています。日本人だけではなく、海外からの観光客も含めて。よくこんなローカルな店に並んでいるなーと思うと、今はトリップアドバイザーやNetflixで世界中に公開されている「孤独のグルメ」も大人気。海外の観光客がちっちゃな店に並ぶわけです。これは東京だけの話ではありません。地方でも起きている現象。県庁所在地でも、駅前に集中しているのは全国のチェーン店ばかり。観光客はローカルを求めてその地に降り立つけど、地元のお店は値段も安いチェーンの店に負けてしまって撤退している、という問題も多発してます。観光客目線でいえば、やっぱり地元食堂は残して欲しい。でも便利さコスパを求めれば、地元の店の存続はますます厳しいという現実。なんか裏腹ですね。

 渋谷ヒカリエの11階には渋谷の未来図のジオラマが置いてあります。これを見ると2020年のオリンピックに向けて、渋谷駅はフラットなデッキに囲まれた近未来都市に生まれ変わります。今は工事だらけでイライラしているけど、もっと便利になると。でもここにあった、あの富士屋は二度とつくれない。外国人観光客も喜ぶ日本らしい風景を、開発という名の下に潰していないだろうか?その意味で、大型開発がない浅草や神楽坂はホッとします。未来が街の魅力を失わないために、何をするべきか? 富士屋本店跡地の桜ヶ丘から、以上です。
 

THIS MANTH'S CODE
 

#富士屋本店

渋谷桜ヶ丘のビルの地下一階、開店から45年の富士屋本店。1000~2000円で飲めるいわゆるセンベロ居酒屋。居酒屋評論家、吉田類氏の番組「酒場放浪記」にも登場する有名店。

 

#倉本康子ちゃん

ファッション雑誌のモデルを務めながら、居酒屋好きを公言する、美女。BS TBS「おんな酒場放浪記」に出演中。

 

#渋谷の未来図

渋谷駅前エリアマネジメント協議会によれば、先日渋谷川周辺が生まれ変わって、「渋谷ストリーム」が開業。桜ヶ丘地区は2023年竣工予定で、住居棟やビジネス棟も含めた複合施設に生まれ変わるという。






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