みなさんがこのコラムを手にされている時は、もう「令和元年」。しかしながら、私は今、平成最後の桜を眺めながらこの原稿を書いております。4月1日にロケ現場で、みんなでスマホの生中継を見ながらドキドキしてました。菅官房長官が「令和」と額縁を掲げた瞬間、周囲のスタッフの中で「うーん」というため息が。「しっくり来ないよね」「万葉集だって」「へー」などの会話が続くなか、「でも響きがいいよね」と誰かが言いました。「そうだね」、「いいね」、とだんだん和んでいく空気。「『平成』の時もそうだったかなー、あの時はスマホなかったもんね」などと話し、久々のビッグイベントは終了。平成から令和へ、タイムポケットのような1カ月に思うのは、平成とはなんだったのか?という問いです。
戦争を挟んで、高度経済成長期からバブル期に向かって経済が右肩上がり基調だった昭和とは違い、バブル崩壊からマイナス成長のなか始まった平成は、日本にとってゆるく厳しい時代でした。景気低迷、オウム事件、相次ぐ震災、災害、テロ。失われた30年と言われるのも納得です。
ではファッションはどうだったでしょうか? 男女雇用機会均等法が1986年に施行され、平成は女性がファッションの主役でした。90年代にはギャルカルチャーが生まれ、アムラーブームは渋谷から全国区に。えびちゃん、もえちゃんのモテ服の背景には、ITバブルがあり、ストリートファッションが注目され、原宿発信の個性的なロリータファッション、ゴスロリ系、カワイイカルチャーも、平成ならではのブームです。2019年の今は、ゆるふわ系や古着女子など、より力を抜いたお金をかけないファッションが人気です。
平成の30年間で、女の子の働き方も変わりました。男性社員の補助的仕事がメインだったOL時代から、男並みに働くバリキャリが生まれ、2000年以降は非正規雇用、派遣社員、フリーターが増加。同時に、服にかける単価も下がり続け、1991年に年間約30.2万円だったファッションの支出額は2016年には約13.9万円に。まさにデフレスパイラルです。
低成長期の平成生まれのミレニアル世代に聞くと、「生まれてよかったという実感がずーっとない」のだそうです。ファッションに熱い気持ちを持っていたギャル時代が羨ましい、とも。「ギャルマインドの『うちら最高!』という自信たっぷりで主体的なところに憧れるんですよ」(23歳女子)とか。確かに、あの頃はSNSがない代わりに、雑誌やテレビで見る歌手やモデルが憧れ。単純だったゆえに、おしゃれへのエネルギーも一点集中してブームが生まれやすかったのかと思います。インスタ中心の現代は、流行も価値観も選択肢も、すべてが"個"になって、泡のように小さなブームが生まれては弾けます。一発ギャグでさえ、3カ月が賞味期限です。承認欲求に追われる今の20代が「昔が羨ましい」というのも、ちょっと納得してしまいます。
さてさて、これからの令和はどんな時代になるのでしょう? 平成の大量生産・大量消費への反省から、サスティナビリティな服がもっと生まれそうですね。願わくば、ファッションへの情熱だけは失われない時代になって欲しい。昭和生まれのおばさんの願いであります。
THIS MONTH'S CODE
#ゆるふわ系
代表的なブランドは《who's who Chico》。ルミネ系で人気。ゆるっとしたシルエットで、第一印象のよい、誰も傷つけない、優しい服です。
#ファッションの支出額
1世帯あたりの年間消費支出額。『「被服及び履物」消費支出額の推移』2017年経済産業省調べの資料から抜粋。
#サスティナビリティ
イギリスで今年のエリザベス女王賞を受賞した27歳のベサニー・ウィリアムズは、ホームレスやDV被害者を労働力として雇用し、服をつくっている。