illustration: Shogo Sekine

#ハイヒールはもう履かない?《東京#CODE》


 今、このコラムを読んでいただいている皆様、あなたが乗っている地下鉄の車両の中で、ピンヒールで通勤している女性はどれくらいいますか? 最近レディスの靴ブランドのお仕事をしているので、ずーっと女子の足元を見ております。スニーカー通勤が当たり前になり、チャンキーヒール(かかとが太めのやつね)やフラットシューズの流行もあって、"最近の女子はピンヒールを通勤でほとんど履かない"という結論が見えてきました。ただし、これは、業種によってすっごく変わります。営業職の女子がカタめの会社に営業に行くときは、ピンヒールを履くそうです。30歳広告営業部女子の証言。「外回りにはヒールは必要だけど、会社に"置きヒール"しているから通勤はスニーカーです」。置きヒール! なんと合理的な。25歳IT系広報女子は「そもそも服がカジュアル通勤なんで、フラットシューズしか履きません」と。そんな彼女たちにとってピンヒールを履くシーンは、「結婚式か、スーツ系の彼とデートするとき」のみに限られるのだそうです。ふむ。

 ヒールの痛み、これって男性には分からないだろーなあ。7センチヒールなんて、ずっと坂道で踏ん張っているようなもんなんです。ポインテッドトゥ(とんがったつま先)を履くと、つま先は纏足(てんそく)状態。それでも、女らしく、可愛くいたい女性は長年、その痛みにも耐えてきたのです。

 しかーし。それはOLが主流だった頃のお話。OL=オフィスレディも、最近では死語のようです。かつて一般職と言われた受付業務、経理事務や事務仕事は、今やIT革命のおかげでどんどんデジタル化、またはアウトソーシングされております。営業だって、足で稼ぐよりメール営業の方が多いくらいの今日この頃。都会で働く女性の仕事のスタイルも変わってきました。職場の花より、実践的な仕事をしている女子が増えています。そうなると、見た目よりも仕事の快適さを優先するのは当たり前。とくに働き方改革以降、スーツで働く必然性も失われている。男性はいまだスーツ族が減らない一方で、女性の方はカジュアル通勤が増えています。

 「40代以上の先輩OLの方がピンヒール率が高いですね」。とあるPRの女子の証言。例えば皇居周辺のランステーションに行くと、走ったあと、20代女子はすっぴんで帰るけど、40代アッパーの女性はしっかりメイクして、髪も巻いて足元はピンヒールで帰るのだそう。

 NY在住の佐久間裕美子さんは、著書『ピンヒールははかない』の中で、以前はヒールというものが女性らしくいるために履くものだと思い込んでいた、と書いてます。「せっかくだったら、フルスロットルでめいっぱい生きたい。だから自分の足を減速させるピンヒールははかない。」と。常に全力で生きるためにヒールよりフラットシューズ&スニーカー、という選択。同様のことを、お子さんを育てながら働いている34歳の女性に言われました。「子育てしていて、ヒール履いていたら、ダッシュできないじゃないですか。だから私は履きません」と。

 もちろん、ときにはお姫様気分も味わいたい。でも、普段はリラックスして働けばいいよね。がむしゃらに綺麗を頑張るより、身の丈で生きる。そんな時代なのです。

THIS MONTH'S CODE

#置きヒール

社内のロッカーにヒールを置いていること。最近、疲れないヒールとして、機能性の高いハイヒールブランドが人気。

#通勤はスニーカー

ニューバランスのML574、ナイキのクラシックコルテッツ、アディダスのスタンスミスなどベーシックなレザー素材のタイプが依然人気。

#『ピンヒールははかない』

NY在住約20年。大都会で生きる女性たちのリアルが詰まっているエッセイ集。女性としてこの時代をどう生きるか。フラットな視線で描かれている。(著:佐久間裕美子╱幻冬舎)






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