大阪駅で降りてコンコースを抜けた先に、大きな空が広がっていました。大都会にぽっかりと空いた大きな空。できたばかりの広々とした公園には、家族連れやカップルが思い思いに座ったり遊んだり。奥には噴水広場も。水を浴びながら遊ぶ子供たちの歓声、流れてくる音楽、そこに広がる美しい夕焼け。日本とは思えないほどの幸せな光景に、心を奪われました。
ここは梅田地区の北側、うめきた公園です。この一帯は長年にわたり、工事が続いていました。2013年には「グランフロント大阪」がオープン。その向かい側に、うめきた公園を含む「グラングリーン大阪」の一部が、この9月に開業しました。全体の面積は約9万㎡、その総事業費は約6000億円にも上る都市再開発です。万博を来年に控え、大阪はすごい勢いでアップデートしています。あのごちゃごちゃしていた梅田・大阪駅前まで、まるっとおしゃれな都市公園として生まれ変わったのです。「Osaka MIDORI LIFE」の創造がコンセプトというだけあって、たくさんの緑で埋め尽くされています。なによりも驚いたのは、都市計画の中心が大きな公園だということ。ビルで埋め尽くすのではなく、まるで都会にすぽっと開いた穴のように広がる、緑でいっぱいの空間(ブランク)。その光景のなんと美しいことか。公園を囲むようにホテル、オフィスビル、マンション、商業施設、そして安藤忠雄氏が設計監修した「VS.(ヴイエス)」という名の文化体験施設が並んでいます。その都市機能をつなぐのが“ひらめきの道”という橋です。エコとグリーン、そしてイノベーション。この3つの機能を、大阪のど真ん中に集約しているのです。これだけの広大な土地をビルで埋め尽くさず、緑あふれる空間をつくり上げたことに感嘆しました。
「グラングリーン大阪」では、環境に対する観点「みどりのものさし」を掲げています。温室効果ガスの削減、樹木による空気の浄化、温熱環境の改善、生物多様性の促進、雨水流出の抑制という5つの指標です。ここに参加する協力企業も、徹底的にサステナブルな価値観を共有する企業、団体が並んでいます。
最近、大阪に引っ越した友人が「大阪って、人と人の距離が近いんだよね」と言っています。商店街で飲んでいると、いつのまにか隣の人と話しだしたり、困った人がいたら助けてくれちゃうおばちゃんもいたり、吉本を生んだ大阪は、たしかに人間関係の密度が高い。
オープンしてまだ日は浅かったのですが、うめきた公園は子供からお年寄りまで、あらゆる世代の人たちが混じり合って楽しんでいました。笑顔であふれていて、大阪ええなあ、と思わずつぶやいてしまいました。
「智恵子は東京に空が無いといふ、ほんとの空が見たいといふ」。高村光太郎が昭和に書いた詩集『智恵子抄』がまるで予言書だったみたいに、東京は広い空がない都会になりました。隙間なくビルが立ち並ぶ景色。変化が目まぐるしくて、その場所に以前は何があったかをすっかり忘れてしまう。過去の残像を上書きし続ける、それが東京です。そんな都会のど真ん中に、ぽっかりとした緑のブランクができたら。大阪みたいに人がつながる、生きやすい街になるんじゃないかな。そんなことをあらためて思うのでした。
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#「グラングリーン大阪」
かつては梅田貨物駅があった広大な土地を再開発。今年9月6日に第一弾のエリアがオープン。全体の開業は2027年度を予定している。ヒルトンの最上級ホテル「ウォルドーフ・アストリア」に加え、大浴場や温水プールを備えた健康増進施設なども開業予定。
#「VS.(ヴイエス)」
さまざまなアートやカルチャーを体験できる注目の施設。12月1日(日)までは、吉田ユニ展“PLAYING CARDS”を開催中。
#『智恵子抄』
心を病んだ妻、智恵子との日々を綴った詩集。引用はその中の一編「あどけない話」(高村光太郎『智恵子抄』 新潮文庫)より。