「このゆきだるま だーれ?」(岸田衿子・文、山脇百合子・絵、福音館書店)

【絵本に再び出会う】「このゆきだるま だーれ?」 山脇さんの温かい絵の世界

, コラム

 先日、病院の待合室で一組の親子に会いました。3歳ぐらいの女の子とお母さんが、一緒に絵本を見ていたのですが、声を出しているのは女の子で、お母さんはニコニコしながら、娘の言葉を聞いていました。

 2人が見ていたのは、「このゆきだるま だーれ?」(岸田衿子・文、山脇百合子・絵、福音館書店)です。主人公のもみちゃんと、動物たちを乗せたそりが、山の上からしゅうーっと滑っていきます。その途中で、動物たちが次々にそりから落っこち、転がって、転がって…もみちゃんが下に着くと、見たことのない雪だるまが並んでいます。この雪だるまはだーれ? 雪だるまの中から、動物たちが顔を出します。「あー おもしろかった」「もう いっかい のろうよ」と、そり遊びは続きます。

 岸田さんのリズミカルで優しい文章は、耳に心地よく響きます。さらに、絵が登場人物の個性や心の動き、その場の雰囲気まで、物語の世界を見事に描き出しています。山脇さんの絵は、物語の言葉の世界の内側に入って、登場人物とともに存分に遊び、面白さを味わいながら生まれているのではないでしょうか。

 山脇さんが描く、もみちゃんの表情や、動物たちが逆立ちしたり飛び跳(は)ねたりする姿からは、皆の楽しそうな会話が聞こえてくるようです。山の斜面を滑り降りる風までも、感じることができます。

 待合室の女の子は、文には書かれていない場面ごとの、もみちゃんや、ぶたさんの気持ちを言葉にして代弁しました。また、「ごっつん」「ぼこっ」と、そりが切り株や雪のこぶに当たる音や、「ふわぁー」とそりが飛ぶように滑る動きも、言葉にしていました。

 山脇さんの柔らかで温かいタッチの絵には、ありのままの子供の世界が描かれ、“子供らしさ”があふれています。そこには、山脇さんの子供への優しさと信頼、深い愛情を感じることができます。それゆえ、子供は自分と同じ目線や感覚で、この物語の世界に入っていけるのです。

 お母さんは、絵の中に子供の面白さやいとおしさを見つけます。山脇さんの絵は、忙しさに疲れた心をほっこりと温めてくれます。(国立音楽大教授 林浩子)


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