『おおかみと七ひきのこやぎ』(フェリクス・ホフマン絵、瀬田貞二訳)

【絵本に再び出会う】『おおかみと七ひきのこやぎ』 昔話を味わう

, コラム

 誰にも、幼い頃に聞き読んだ昔話があります。

 ある絵本講座で、子供を持つお母さんの「昔話は残酷な描写が多いので、子供に読むことをためらってしまう」という声を聞きました。昔話には、動物や人間が生命をめぐって戦い、命を奪われるというお話が数多くあります。

 昭和42年に福音館書店から刊行された『おおかみと七ひきのこやぎ』(フェリクス・ホフマン絵、瀬田貞二訳)は、グリム童話の原作が忠実に描かれた一冊です。

 お母さんやぎは「おおかみに くれぐれも きをつけておくれ」と言い残し、森に出かけます。ところがおおかみは、こやぎたちをだまして食べてしまい、時計の箱に隠れた末のこやぎだけが助かりました。お母さんやぎは嘆き悲しみますが、すぐに寝ているおおかみのおなかをハサミで切ってこやぎたちを助け、代わりに石を詰めます。のどが渇いて水を飲もうとしたおおかみは、おなかの重みで井戸に落ちて死に、周りでこやぎたちは「おおかみ しんだ!」と踊りを踊るのでした。

 この絵本を大学生に読むと「自分の読んだ本では、おおかみは森に逃げていく結末だった」「“しんだ”という表現にたじろぐ」という声があがりました。サエさんは「幼い頃(ホフマンが描いた)愛情深いお母さんやぎを自分の母親と重ね、必死に子供を助け出す姿に安心感を覚えていた」と言いました。ゲンさんは「おおかみが逃げていくストーリーでは、再びこやぎを狙いに来る心配はないのか」「成長して改めて読むと、人も動物も生きるために命を奪っていることに気づいた」と話しました。ゲンさんの言葉から、昔話が単に自縄自縛(じじょうじばく)や勧善懲悪などの戒めにとどまらず、命や生きていくという営みの喜び、苦しみを教えてくれることが分かります。

 幼い頃に読んだお話が子供の心の中にため込まれ、成長した時にその意味に気づくことがあります。それゆえ、人々に語り継いでこられた「本当の」話を読み聞く必要があるのではないでしょうか。

 また、場面ごとのお母さんやぎや、こやぎ、おおかみの表情や時計が示す時間や井戸など、ホフマンの細やかな描写が、このお話をより豊かにしています。(国立音楽大教授 林浩子)


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