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《映画でぶらぶら》「弱さ」という鎖に縛りつけられた現代の囚人たちの物語

COLUMN, Movie/TV series, CULTURE

 見終わった後、ダグラス・サークの映画を思い出した。裕福な未亡人と庭師の若い青年のラブストーリー(『天はすべて許し給う』)。裕福だが愛情に飢えた兄妹と、彼らに愛された男女の歪な四角関係(『風と共に散る』)。サークの映画では、みなけばけばしい装飾品を身につけ、自身の属する社会的状況にがんじがらめになっている。

 『ノクターナル・アニマルズ』の主人公は、まさにサーク流メロドラマの登場人物のようだ。優雅なファッションで身をかため、アート作品に囲まれた邸宅に住むスーザン。でもあまりに経済的に恵まれた生活は、時にひどくグロテスクだ。家は牢獄のように冷たく、のっぺりと塗られた唇やアイメイクはまるで死に化粧のよう。高価な衣服が、拘束衣にすら見えてくる。

 彼女が最初の夫エドワードに惹かれたのは、自分が属する社会から逃れたかったからだ。母親のような女にならないために、彼女は、貧乏な小説家志望の青年を選ぶ。だが結局、彼女は夫を捨て、もといた場所へと戻っていく。豊かだが醜悪さに満ちた生活へと。

 すっかり檻の中の生活に安住したスーザンの元に届いた小説原稿。それはテキサスのハイウェイで悪漢たちに因縁をつけられ、妻と娘を拉致された男トニーの物語だった。過激な暴力描写に怯えながら、スーザンは、その力強いストーリーに魅了されていく。

 元夫の書いた小説は、ふたりの間に起きた出来事を呼び起こす。混乱するのは、劇中劇であるトニーの物語も、エドワード役と同じジェイク・ギレンホールによって演じられるからだ。そのため、スーザンたちの過去の記憶と、架空のはずのトニーの物語が交錯する。

 ふたりの男をつなぐのは、彼らの「弱さ」だ。トニーを襲った理不尽な暴力は、エドワードがかつて体験した出来事の象徴でもある。自らの弱さゆえに愛する者を奪われた彼らは、その後悔に永遠に囚われる。でも、繊細で臆病な彼らは、本当に弱き者なのか。強き者でい続けようとしたスーザンこそ、実は弱さという鎖に縛りつけられた囚人だったのではないか。

 元夫からの奇妙な贈り物がスーザンにもたらすのは、解放なのか、それともさらに強靭な鎖か。どぎつく過剰なビジュアルと、先の見えないストーリーに、私たちもまた否応なく囚われてしまう。

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エドワードの書いた小説内で、トニーと共に犯人を追い詰める警部補ボビー。
マイケル・シャノンの渋い演技がたまらない

This Month Movie『ノクターナル・アニマルズ』

 経済的に恵まれた生活を送りながらも、言いようのない虚しさを抱えるアートギャラリー・オーナーのスーザン。そんなある日、20年前に離婚した元夫から、自分との別れから着想したという小説の原稿が届く。戸惑いながらも原稿を読み進める彼女の中で、小説と過去の記憶が交錯していく。フッションデザイナーのトム・フォードの監督二作目は、人気小説を映画化した愛と復讐の美しきミステリー。

TOHOシネマズ シャンテほかにて公開中。

監督:トム・フォード
出演:エイミー・アダムス、ジェイク・ギレンホール、マイケル・シャノン

旧作もcheck!

『風と共に散る』


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 石油会社の御曹司カイルと親友ミッチ。二人の運命は、一人の女を巡り悲劇へとひた走る。

監督:ダグラス・サーク
出演:ロック・ハドソン、ロバート・スタック、ローレン・バコール
DVD発売中 1429円
NBCユニバーサル・エンターテイメント

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