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自己と他者との境界で苦しむ主人公の、解放と目覚めの物語《映画でぶらぶら》


 ほかの人々とは異なる、どこか恐ろしげな風貌を持った者たち。いわゆる「異形の者」たちは、ホラー映画をはじめ、これまで様々な映画に登場してきた。人間と異形の者とのラブストーリーも数多くある。たとえば、孤独な女性と不思議な半魚人との恋愛劇を描いた『シェイプ・オブ・ウォーター』のように。一方で、異形の者たちは、「秀でる者」にもなりうる。彼らは、あまりに優れた能力を持つがゆえに人々から差別され、排斥される。

 『ボーダー 二つの世界』もまた、「異形の者」かつ「秀でる者」の物語。主人公のティーナは、人とは異なる風貌と、心の機微を嗅ぎ分ける優れた嗅覚を持つ。怪しい荷物を感知できる彼女は、税関職員の仕事をつとめ、それなりに社会に適応している。父から受け継いだ森の中の一軒家では、犬好きな無職の男と同居中。それでも彼女がどうしようもなく孤独なのは、自分は醜く、人より劣った人間であると認識しているからだ。彼女が自分を解放できるのは、ひとり、美しい森を散策するときだけ。

 そんなティーナが、ある日、自分と似た風貌を持つ男ヴォーレと出会い、自分の出自(しゅつじ)に疑問を持ち始める。私は果たして何者なのか。他者と異なる見た目や能力を持つのはなぜなのか。謎の追求とともに、奇妙で魅惑的な世界が広がりだす。ティーナをめぐる謎が、一つまた一つと明かされるたび、彼女をがんじがらめにしていた境界線が揺らぎだす。美と醜。善と悪。男と女。あらゆる境界線が打ち砕かれるさまは、じつに爽快だ。

 これは、解放と目覚めの物語。自己を解放したティーナの顔に怪しい輝きが宿るとき、暗く陰鬱な画面のなかに至福の瞬間が訪れる。力強く獰猛(どうもう)な性交シーンは、私たちが無意識に抱え込んだ美の基準をくつがえし、映画を見る視線そのものを更新する。

 だが世界はどこまでも残酷だ。既存の境界線が壊れたとき、また別の境界線が引かれてしまうことを、ティーナはやがて知るだろう。自分と他者とを引き裂く境界線との前で佇む彼女の苦しみに、私もまた自分自身を重ね合わさずにいられない。ティーナの逡巡に寄り添ううち、思いもかけない場所へ連れていかれる、不可思議で奇想天外なダークファンタジー。その裏には、私たちが生きる現実社会が透けて見える。

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ティーナ役のエヴェ・メランデルは、スウェーデンでは著名な俳優。本作では特殊メイクを用いて難役を演じた


This Month Movie『ボーダー 二つの世界』

 独特の容姿と、人の心の匂いを嗅ぎ分ける特殊能力を持つ、税関職員のティーナ。孤独を抱えて生きる彼女はある日、ヴォーレという奇妙な男と出会い、自分と近しい何かを感じとる。だがこの出会いを機に、彼女は自分の正体を知ることに…。『ぼくのエリ 200歳の少女』の原作者ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストが原作と共同脚本を手がけた、驚くべき北欧製ダークファンタジー。

10月11日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開。
監督:アリ・アッバシ
出演:エヴァ・メランデル、エーロ・ミロノフ


旧作もcheck!

『獣は月夜に夢を見る』

 少女が自分の体の異変に気づくとき、街で不穏な出来事が起き始める。「異形の者」を描いた北欧ミステリー。

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©2014 Alphaville Pictures Copenhagen ApS

監督:ヨナス・アレクサンダー・アーンビー
DVD:3800円
発売元:クロックワークス
販売元:TCエンタテインメント

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