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《映画でぶらぶら》 賢く勇敢な少女は自由を求めて走り出す


 トルコの小さな村で暮らす美しい5人姉妹。その肉体はきらきらと輝き、否応なく男たちの視線を集める。だが横暴な叔父はそれを„ふしだら“だと言い、彼女たちを家に閉じ込めてしまう。祖母や村の女たちは男の言いなりだ。映画でも描かれるが、トルコでは2年前にアルンチ副首相が「女性は人前で口を開けて笑うべきではない」と発言し、世界各国で強い反発を呼んだ。女性への抑圧と自由をめぐる状況は、トルコに限らずどこの国でも切実な問題だろう。

 軟禁され、のぞまぬ結婚を強いられる姉妹たちの反応はみな異なる。うまく立ちまわる者もいれば、心を病む者もいる。サッカーが大好きな末っ子のラーレだけが、自分が置かれた状況に怒りつづける。力強いまなざしを持ち、駿馬のように駆けるラーレこそ希望の光だ。

 閉じ込められた家の中でも、少女たちはみなカラフルな服で着飾る。きっとそれが精一杯の自己主張なのだろう。だからこそ、体のラインを隠す地味な色のワンピースを無理に着せられた姿は痛ましい。そんなものは脱ぎ捨てどこまでも逃げればいい、と祈るように思う。あなたたちを縛りつける愚かな大人への怒りを忘れないで。好きな服を着て、望むだけ勉強し、大声で笑う自由をあきらめないで。そんな私の心の祈りが届いたかのように、賢く勇敢な少女は醜いワンピースを脱ぎ捨て走り出す。これは単なるガールズムービーではない。自由をめぐる闘争の物語なのだ。

 最近、フィンランドのデザインブランド、マリメッコの展示開催を機に知った話がある。1950年代の同社のデザイナーは、コルセットで締めつけられた当時の女性の体を解放することを目指したという。ファッションによる女性解放といえばシャネルが有名だが、フィンランドではマリメッコの服が女たちの心を解き放ったと知り、もし『裸足の季節』の少女たちがあのカラフルで大胆なデザインの服を着たらどんなに素敵だろう、とおかしな妄想にとらわれた。

 そういえばアメリカのガールズムービーにも、親から与えられたワンピースを脱ぎ捨て走る少女がいた。『ローラーガールズ・ダイアリー』でローラーゲームに夢中になる17歳のブリス。彼女もまた、派手なTシャツとアイシャドウがよく似合う、野生の馬のような少女だった。

『裸足の季節』

 古い慣習と封建的思想の残るトルコの小さな村。両親を事故で亡くした美しい5人姉妹は祖母の家で暮らしていたが、年頃になり、同居する叔父からその行動や服装を厳しく管理される。学校にも行けず軟禁状態となった姉妹たちは、次々に決められた相手と結婚させられていく。やがて4女の結婚も決まり、13歳の末っ子ラーレはある決意を固めるが…。トルコ出身でフランス在住の女性監督の初長編。

 監督:デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン
 出演:ギュネシ・シェンソイ、ドア・ドゥウシル


 シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほかで公開中

映画『裸足の季節』オフィシャルサイト

旧作もcheck!

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『ローラーガールズ・ダイアリー』

 アメリカの田舎町で母親に言われ美人コンテストを受け続けるブリスは、ある日女たちのパワフルなローラーゲームと出合い、夢中になる。

 監督:ドリュー・バリモア
 出演:エレン・ペイジ

 発売元:ギャガ
 販売元:ポニーキャニオン
 DVD発売中
 3,800円


月永理絵(つきなが・りえ)

 編集者・ライター。<映画酒場編集室>名義で書籍、雑誌、映画パンフレットの編集・執筆をてがける。WEBマガジン「R the TIMES」で映画と本のエッセイ連載がスタート





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