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画面を埋めつくす無数の顔と声が、熱気と興奮をつくりだす《映画でぶらぶら》


 ドキュメンタリー映画の巨匠フレデリック・ワイズマン。彼の映画製作の姿勢は、つくづく一貫している。撮影対象へのインタビューを行わず、ナレーションや説明のための字幕はつけない。解釈を挟まず、映像だけで見せていく。とはいえ、出来上がった作品が現実そのものだとは言い切れない。現実の風景を再構成すれば、自然といくつもの物語と思想が浮かび上がる。

 これまで、公共図書館、精神病院、大学など、さまざまな組織や場所を撮影してきたワイズマン。彼が新たな題材として選んだのは、生まれ故郷でもあるボストンの市庁舎(市役所)。マーティン・ウォルシュ市長(現在は市長を退任し、バイデン政権下で労働長官を務めている)をはじめ、市の職員たちに長期間密着し、274分ものドキュメンタリーをつくりあげた。

 映画は、市長の精力的な活動や、職員たちの日々の仕事をじっくりと見せていく。市の仕事は多種多様で、カメラは市庁舎内部だけでなく、街のあちこちを歩きまわる。パトロールやパレードの警備をする警察官たち。ゴミ回収や道路の舗装工事をする人々。市民の交流のため、料理教室や意見交換会を行ったり、家を訪ね住宅問題の解決に努める人もいる。その働きぶりを眺めるうち、行政が担う仕事の幅広さに改めて気づかされる。

 画面には、多様な顔と声が次々登場し、退屈する暇がない。とにかく誰もがよく喋る。会議で意見を述べる人。式典や講演でスピーチをする人。市庁舎に相談にやってきた人。皆、自分の主張や伝えたいことを、身ぶり手ぶりを交えて熱心に喋り続ける。

 話す人がいれば、それを聞く人もいる。静かに聞き入っているかと思えば、負けじと自分の意見をぶつけだす人もいて、話す人/聞く人、という構図が徐々に対話の形に発展していくさまが楽しい。たくさんの声が忙しく交差するうち、いつしか奇妙な興奮状態が生まれていく。

 この巨大な映画は、無数の顔と声を映しながら、社会そのものの姿を見せてくれる。本来、私たちの社会は、多様な人々によって成り立っているのだ。一方で、言葉をぶつけあい、笑みを交わし、握手をする人々の姿がひどく眩しく見えた。こんな光景が、いつかまたやってくるだろうか。

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人々の姿とともに、ボストン市内のさまざまな建造物や自然風景が映るのも、この映画の見どころ。

This Month Movie『ボストン市庁舎』

 アメリカ、マサチューセッツ州にあるボストン市庁舎。そこでは、市長を筆頭に日々さまざまな仕事が行われ、市民のための多様なサービスが提供されている。『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』のフレデリック・ワイズマンがカメラを向ける。市の職員たちの仕事を通して、行政のあり方、そしてアメリカという社会の現状を浮かび上がらせるドキュメンタリー。

11月12日(金)よりBunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開。
監督:フレデリック・ワイズマン


旧作もcheck!

『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』

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移民が多く暮らすジャクソンハイツの街の風景と人々を映したドキュメンタリー。ここでも人々はよく喋り、対話する。

監督:フレデリック・ワイズマン
DVD:5280円
発売:シネマクガフィン
販売:紀伊國屋書店

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