街を駆けまわる、二人の子供。母親ゆずりのワイルドなカーリーヘアをなびかせているのは15歳のビリー、そして11歳の弟ニコ。姉弟は、サンタクロースのバイトをする父アダムと三人暮らし。アダムは子供への愛情はあるものの、妻イヴが家を出ていった痛手から立ち直れず、酒に溺れている。破綻寸前の家庭で、ビリーは懸命に家族を支えている。
しかしアダムの依存症は日に日に悪化し、ついにリハビリ施設に入院する。ビリーとニコは、母が愛人と住む海辺の家へ身を寄せるが、大人たちは自分のことしか考えていない。二人は、近所に住む少年マリクと親しくなる。マリクもまた、身勝手な大人に傷つけられた子供だ。ある事件を機に、三人の少年少女はついに家から飛び出す。どこかにある楽園を目指し、逃避行が始まった。
自由を手に入れた子供たちは、まるで野生動物のようにあちこちを駆けていく。歌を歌い、海で泳ぎ、空き家に忍びこみファッションショーをする。喜び、はしゃぎ、転げまわる。彼らの小さな身体が、モノクロの世界のなかでひたすら躍動する。
けれど幸福な時間は、長くは続かない。残酷な現実がひたひたと追いかけてくる。なにがあろうと、彼らを見つめるカメラの視線は優しく親しげだ。これほど親密な視線で映された映画は、久しぶりに見た気がする。
監督は、『イン・ザ・スープ』がカルト的な人気を得た、アレクサンダー・ロックウェル。長年インディーズ映画にこだわってきた彼の最新作は、自己資金をもとに、身近な人々との共同作業でつくられた。ビリーとニコを演じるのは、監督の実の子供たち。ほかの出演者も、家族や友人ばかり。スタッフには、監督が教える映画学校の生徒が参加する。
ここに登場する誰もが、これは自分の作品だと信じ、映画づくりに貢献している。人々の熱意と愛情が、16ミリフィルムで撮られたざらつく画面を輝かせる。
手に汗握る大作映画も楽しいけれど、ときには、愛らしく小ぶりな映画にどっぷりと浸ってみたい。画面いっぱいに広がる、子供たちの顔の力。躍動する身体が生み出す幸福感。この小さく親密な物語が、映画を見る純粋な喜びを、あらためて教えてくれる。

ビリーは、自分の名前のもとになった歌手ビリー・ホリデイを夢に見る。そのとき、モノクロの世界がカラーに変わる。
This Month Movie『スウィート・シング』
15歳のビリーは、弟のニコ、父と暮らしている。だが父は酒に溺れ、ついに入院措置に。姉弟は、家出した母とその愛人と一緒に暮らし始めるが、ここにも彼らの居場所はない。やがて近所の少年マリクと親しくなり、三人は楽園を夢見て旅に出る。『イン・ザ・スープ』のA・ロックウェル監督、25年ぶりの日本公開作。
10月29日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほかにて公開。
監督:アレクサンダー・ロックウェル
出演:ラナ・ロックウェル、ニコ・ロックウェル、ウィル・パットン
旧作もcheck!
『イン・ザ・スープ』

NYで映画づくりを夢見る青年をスティーヴ・ブシェミが、その奇妙なパトロンとなる男をシーモア・カッセルが演じた、映画愛あふれる物語。
監督:アレクサンダー・ロックウェル
10月29日(金)より1週間、新宿シネマカリテにて特別上映