© DFFB, Sakdoc Film, New Matter Films, rbb, Alexandre Koberidze

映画の魔法を信じれば、なんだって起こりうる《映画でぶらぶら》


 ある日、二度も偶然の出会いを経験した、薬剤師のリザとサッカー選手のギオルギ。運命を感じた二人は、今度は自分たちの意思で会おうと、翌日の再会を約束する。だが翌朝目覚めると、彼らはなぜかまったく別人の姿になっていた。名前や連絡先を知らず、相手の姿しか覚えていないリザたちは、約束の場所に行っても互いに気づくことができず、永遠に相手を待ち続ける。

 リザたちを襲ったのは、見た目を変え、もともと持っていた才能までも変えてしまう邪悪な呪いの力らしいが、その正体や解き方はよくわからない。仕方なく、リザはギオルギとの再会を約束した白い橋の見えるカフェで店員として働き始め、ギオルギも近くの露店で働くことに。すぐそばにいながら、互いの正体に気づかない二人。果たして彼らは再び恋に落ちることができるのか?

 まるでディズニー映画のような物語だが、仕掛けはごく単純。リザ/ギオルギ役に別の俳優を使い、呪いの力で二人は変わってしまったと、ナレーションによって説明するだけ、そのチープさがなんともおかしい。そもそも運命の出会いの場面では、彼らの顔ではなく足もとだけでドラマをつくってみせる。こんなひと目ぼれの瞬間は、初めて見た気がする。

 けれど見ているうち、誰もが、リザたちを襲う謎の力も、ユニークな出会いも、すべて信じてしまうはずだ。ごうごうと音を立てて流れる川。風になびいて揺れる木々。夜のカフェを照らす街灯のほのかな灯り。弧を描いて飛ぶサッカーボール。それぞれは日常的な風景なのに、画面に映るすべてが、魔法のような力で私たちの目をとらえて離さない。この街でならどんな突飛な出来事が起こっても不思議はない、そんな気がしてくる。CGや特殊効果を使わなくても、ただ現実を映し、そこに言葉をのせるだけで、魔術的な瞬間はいくらでもつくりあげられる。これは、そんな映画の魔法を信じる人へのとっておきの贈り物だ。

 近くにいるのになかなか出会い直せないリザとギオルギ。彼らの運命は、あることをきっかけに大きく動きだす。新たな魔法をかけるのは、街にやってきた映画の撮影隊。呪いも魔法も恋の成就も、映画の力を信じさえすれば、どんなことだって起こりうる。

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二人の足だけで奏でられる、最高の出会いの場面。

This Month Movie
『ジョージア、白い橋のカフェで逢いましょう』

 ジョージアの都市クタイシに住む、薬剤師のリザと、サッカー選手のギオルギ。ある朝偶然に出会い、夜に再会した二人は、次の日にもう一度会おうと約束する。だが、この街には不思議な力があった。翌朝、呪いの力でそれぞれまったく別の姿になってしまった彼らは、運命の相手との再会を夢見ながら新しい毎日を送ることに。

ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開中。
監督:アレクサンドレ・コベリゼ
出演:ギオルギ・ボチョリシヴィリ、オリコ・バルバカゼ、ギオルギ・アンブロラゼ、アニ・カルセラゼ


旧作もcheck!

『にわのすなば』

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「十函(とばこ)」という架空の街を舞台にした本作もまた魔法の映画。一度訪れた街からなぜか帰れなくなった、ある女性の物語。笑いながらもどこかぞわぞわする、不思議な力にすっかり魅了される。

監督:黒川幸則
※上映情報は映画の公式サイト等にてお確かめください

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