不妊治療や妊活の支援に取り組むフェムテック企業「ファミワン」(東京都)は11月8日、企業における不妊治療支援のあり方について、事例を通して学べるオンラインイベント「『不妊治療と仕事の両立支援、何から始める?』~ファミワンカンファレンス2022~」を開催した。子供を授かりたいと願う従業員が不妊治療と向き合いながら、働き続けられる環境整備を後押ししようという催しで、先進的な取り組みを行っている11社が参加し、事例を持ち寄りながら意見を交わした。
女性の健康課題のなかでも、特にプライバシーに深くかかわり、デリケートなテーマでもある「不妊治療」。治療と仕事の両立支援に欠かせない「社内の理解」を、先進企業はどう浸透させたのか。メトロポリターナ編集部では、「風土醸成部門」で表彰を受けた4社の発表に注目。思いやりのある職場づくりのヒントにつながる事例を紹介する。
「風土醸成部門」で表彰を受けたのは、GAテクノロジーズ、TBS厚生会、NTT、ヤフーの4社。それぞれ、ファミワンが展開する妊活・不妊治療のLINE相談事業や、女性特有の健康課題をテーマにしたセミナーなどを導入している企業だ。
「社内でアンケートをしたところ、男性社員から『それまではセクハラが心配で妊娠、出産の話はしづらかったが、ファミワンのセミナーが社内で行われたことで、生理休暇など女性の健康に関する話も気兼ねなくできるようになった』という声が寄せられた」
そう語ったのは、テクノロジーを活用した不動産関連事業を展開するGAテクノロジーズの担当者だ。
「社内には、いままで見えない壁が存在していたようだが、ファミワンのサービスによって風通しがよくなったと感じる。女性社員からは『会社が出産、育児を応援してくれていると分かり、嬉しかった』という声もあった」と、社内の反響を紹介した。
TBS厚生会は、TBSグループで構成する福利厚生のための互助組織だ。
「これまでもTBSテレビには、不妊治療のための休暇制度があったが、申請や上長承認が必要で、妊活を知られたくない人にとっては使いづらい制度だった。ファミワンのLINE相談は会社を通すことなく、気軽にできる点がいい」とサービスの利点を説明した。
NTTの担当者は、不妊治療支援を行う前提として、社員一人ひとりが多様性を発揮し活躍できる環境づくりを目指す方向性があると指摘。社内風土の変革には「なぜダイバーシティ&インクルージョン(D&I)が大切なのかを理解してもらう必要がある」といい、同社では「D&Iは、企業が生き残るために必要で、経営戦略としても発信している」と話した。
仕事と治療の両立に不安を抱える社員のために、不妊治療経験のある管理職女性に、治療しながら自分らしく働いてきた経験談を聞き、NTTグループ横断の社内報で月に1人ずつ紹介しているという取り組み事例も披露した。
ヤフー担当者はD&I推進において、「全方位の取り組み」が大切だと語った。何かしら一つの属性だけをケアすると、なぜその属性だけ?という話になるため、「一人一人の選択肢を増やし、選択肢を選ぶときの障壁をなくす」ことに注力しているという。
一つの例として、誰もが当事者であるという「気づき」を醸成する取り組みを紹介。「エクオール検査」(※1)と「精液成分検査」(※2)の利用を、社員とそのパートナーを対象に、同時に募集したところ、社員約8000人中、エクオール検査には3039PV、精液成分検査には3618PVのアクセスがあったそうだ。
「こうした分野の支援について、社員の多くが関心を持っていることが分かった。会社から、(不妊治療に関することが)タブーではなく重要なことだと発信することが大切。例えば、精液成分検査を通じて、男性社員が体験することで、男性も不妊治療に関心を持つきっかけとなり、それが風土醸成につながるのではないかと考えている」と話した。
(※1) 女性ホルモンのエストロゲンとよく似た働きをする「エクオール」を体内でつくれるかどうか、またどのくらいのエクオールをつくれているか尿検査で調べる検査
(※2) 精子のパフォーマンスや体のコンディションに関わっていると考えられる精液成分を調べる検査
パネルディスカッションでは、オンラインイベントの視聴者からの質問に、登壇者が回答した。
「社内でセミナーを開催しても、管理職が参加してくれない。どうすれば参加率があがるか」という質問に、ヤフー担当者は「参加の形式が任意か必須かで、参加率は変わる。必須の場合は、出席することの意味を、上層から伝えてもらうことが必要ではないか」と答えた。
GAテクノロジーズの担当者も「成果の管理だけでなく、女性特有の症状やメンタルヘルスといったメンバーの健康管理も、管理職はしっかりやらなければならない、というメッセージを繰り返し伝えている。それを続けることで、任意のセミナーへの参加も増えてきた」と語った。
ファシリテーターを務めたファミワンの戸田さやかさんは「風土醸成の切り口はさまざまだが、企業が組織としてアクションを起こすと、社員からも声が上がる。その声に会社が耳を傾けて、レスポンスをしていくことが風土醸成において、重要なコミュニケーションになるのではないか」と総括した。