text: Sayoko Kusaka photo: Toshiyuki Imae edit: Kohei Nishihara(EATer)

一人ひとりと生きる未来へ[フェムトーク]


女性のココロとカラダのケアを考え、よりよい未来につなげる「Fem Care Project」。本誌編集長・日下紗代子が、さまざまな人にお話を聞きながら、女性の健康課題や働き方について考えていきます。


 今月の「フェムトーク」は、私たちが暮らす街「東京」の都政を担う小池百合子都知事に、女性活躍促進をはじめとする政策の意図や思いについて、お話を聞いた。

 小池知事と言えば、昨今フェムテック企業へのサポートや、卵子凍結(※1)への助成など、女性に寄り添う政策を積極的に打ち出している。そんななか、3月8日の定例記者会見の場で、フェムケアプロジェクトが産経新聞に掲載した「国際女性デー」の特別ラッピング紙面について「気合が入っていましたね」と触れる場面があった。これは!と思い、すぐさま取材を申し込み取材日が決まった。高い天井に大きな窓、各国の記念品が並ぶ東京都庁の一室に入ると、少し厳かな雰囲気からか緊張が高まったが、入室した知事の穏やかな一声でその空気は一変した。

 「これは素敵でしたね。ミモザカラーがとても目をひいて。まずなんだろうという気づきから始まって、いろいろ読ませることにつながっている。『産経新聞』がこうした形で女性のことを取り上げたこと自体がニュースで。これをきっかけに関心と興味と実行につながるといいなと思いました」

祖母の言葉と“クールビズ”

 小池知事は以前から、女性特有の微妙なホルモンバランスの崩れ、妊娠・出産といったライフイベントとキャリアの両立における日本社会の課題に、高い問題意識を持って取り組んできている。日本のジェンダーギャップ指数が146ヵ国中125位で、G7のなかでは最下位に位置していることについては「(諸外国に比べて)ただ遅れていることよりも、いかに女性のエネルギーを社会で生かしていないか、を表す指標だと受け止めています。働く女性が増え、『共働き』という言葉すら使わないくらい当たり前になっている。にもかかわらず、女性の健康への配慮がなかなか根付かないことはとても残念」と危機感を示し、こう続けた。

 「2005年の環境大臣のときに、クールビズ(※2)を始めました。あれは男性の方々が、夏場にネクタイを締めて汗をダラダラ流しながら我慢しているのは気の毒だと思っていました。と同時に、女性がオフィスのなかで、膝かけやカーディガンをはおっているのは、理にかなっていないとも。男性の基準にあわせた状態で、冷蔵庫のようなオフィスで女性が震えながら働いている。私の祖母は『女性は体を冷やしてはだめなのよ』といつも言っていました。地球環境はもちろんのこと、じつはクールビズ政策はさまざまな問題の意識変革を促すものでした」

誰もが今日より明日
いい日になると思えるように

 知事として二期目の令和5年度には、都内在住の18~39歳の女性を対象に、卵子凍結に係る費用として最大30万円を助成する制度を開始。説明会には、想定数を遥かに超える約9600人が申し込んだ。

 「今回の申込者数は、多くの女性が子供を持ちたいと考えている表れのひとつだと感じました。結婚・出産といった一連のライフイベントのなかで、仕事も子育てもしたいという願いは、他国では叶うのに、日本で叶わないのはおかしい。子育てはリスクではないはずです。働き盛りと、妊娠適齢期が重なることが多い中、課題に対して、行政や企業が対応すること。そして、制度やサポートを活用して両立させている先輩たちがいることも大切です」

 東京都は4年度に育児休業の愛称を公募し、「育業」と選定。「仕事を休む期間」ではなく「社会の宝である子供を育む期間」で「未来を担う子供を育てる尊い仕事」という社会全体のマインドチェンジを提案した。近年重要視されているDEI(※3)については、「これまで、人を育てることや、人に着目した都政を行ってきました。子供も、女性も、障害のある人も包摂する社会にしなければなりません。既存の制度にライフスタイルを合わせるのではなく、社会が多様な人から成り立っているからこそ、違いを受け入れ支え合うことが必要。DEIを進めていくことが、本当の意味での社会の豊かさにつながっていくと思っています」と語った。

 東京都が打ち出しているスローガンは「一人ひとりと生きるまち」。一人ひとりの夢や目標を、あきらめずに実現できること。今日より明日がいい日になる、とみんなが思えるように、と知事は言う。20年以上前から、一貫して女性の視点を社会に取り入れてきた知事の強く穏やかな言葉に、少しずつだけど社会は前進している、そんな確かな希望が見えた気がした。

※1)将来の妊娠・出産に向けて卵子を凍結保存しておくこと。妊娠を保証するものではない。
※2)過度な冷房に頼らずさまざまな工夫をして夏を快適に過ごすライフスタイルのこと。2005年に、環境省の呼びかけによってスタート。
※3)ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンの略。性別や年齢、国籍や文化などが異なる多様な人々が互いを尊重し合い、社会で活躍するための公平な機会を持って一人ひとりの能力を十分に発揮できる社会を目指す。

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国際女性デーのラッピング紙面と小池知事。「この日だけではなく、一年中ミモザだったら」と笑顔で語ってくれた。

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東京都が制作した「育業応援ポケットブック」。男性の育業取得率は、2023年度現在約39%。2016年度の約7%に比べ、年々上がっている。東京都は2030年までに90%を目標に掲げ「育業が当たり前になること」を目指している。


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メトロポリターナ編集長
日下紗代子

未来は少しずつ変わってる!

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Fem Care Project

「フェムケアプロジェクト」は、産経新聞社が主催する、女性の心と身体の「ケア」を考え、よりよい未来につなげるプロジェクト。女性特有の健康課題や働き方について情報発信をしながら考えていく。





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