text: Sayoko Kusaka photo: Toshiyuki Imae edit: Kohei Nishihara(EATer)

産前・産後のケアを通じて「休む」ことの大切さを考える[フェムトーク]


女性のココロとカラダのケアを考え、よりよい未来につなげる「Fem Care Project」。本誌編集長・日下紗代子が、さまざまな人にお話を聞きながら、女性の健康課題や働き方について考えていきます。


 出産前後のママやパパのケアの啓発を目的とした「産後リカバリープロジェクト」の活動が広がっている。当プロジェクトの幹事メンバーである株式会社べネクスの下山祐佳さん、一般社団法人日本リカバリー協会の春木完堂さん、株式会社大広の柴田笙子さんに、産後の課題に向き合うことの意義や、企業の枠を越えて啓発することのメリットなどについてお話をきいた。

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下山 祐佳
産後リカバリープロジェクト
プロジェクトリーダー

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柴田 笙子
株式会社大広
フェムテックフェムケアラボ
プランナー

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春木 完堂
一般社団法人
日本リカバリー協会
理事
 

日本人に足りない「休養」への意識

 「台湾の産後ケアがすごい。これを知ったことがきっかけでした」。そう話すのはプロジェクトリーダーの下山さん。台湾には、産後の母の回復に対して「坐月子(ズオユエズ)」という風習があり、ケアセンターやシッターなど、民間の施設やサービスも充実している。下山さんは現地に訪問する機会があり、日本との違いを目の当たりにし、参考にしたいと考えた。

 「プロジェクトの前身は、『神奈川県未病産業研究会』の『休養分科会』での活動です。この分科会は、健康づくりの三要素である、運動、栄養、休養のなかで、休養に関してまだその重要性が知られていないことに強い問題意識をもつさまざまな企業が集まっていました。産後ケアの啓発は、休養の重要性を広める意味でも、具体的かつ急務なテーマだと思い、当時参画していた企業4社がスピンオフする形で『産後リカバリープロジェクト』を立ち上げました」

 産後に焦点を当て調査を進めるうちに、重要な実態もみえてきたという。

 「男女を対象にした調査で、休みたくても役割があって休めないと感じている方の割合が、女性全体では約4割、産後期になると6割を超えてくる(※)。産後のお母さんの体は、大けがを負っているのと同じくらいと言われるほどのダメージがある状況にもかかわらず、まだまだケアが行き届いていないという実情が浮き彫りになりました」

産後の家族をひとりにしない

 近年は、最短の産休で復職する人も多い。情報のアップデートが必要と考え、まずは現状を発信することが最優先と考えた。「たとえば、先日出した『産後リカバリー白書2023』では、男女でも肉体的疲労と、精神的疲労と、疲労のタイプもタイミングも違うことがわかりました。そのことを知るだけでコミュニケーションも変わってきます。データからファクトをつくって発信する。世の中に可視化させることが大事で、まずは知ることが第一ステップだと思っています」(春木さん)。

 母親側の悩みで多かったのが『夫側の職場の理解』だった。夫自身が育児に取り組みたいと思っていても、仕事の調整が難しい現実がみえてきた。「社会全体の意識のアップデートも必要です。当事者以外の人も同じ知識を持って関与していくことで、産後の家族をひとりにしない仕組みづくりを目指したいと思っています」 。大広フェムテック・フェムケアラボの推進も行う柴田さんは、こうした課題感に賛同する民間企業の役割も大きいという。

 「参画企業のひとつであるトイザらス・ベビーザらスさんでは、既存のママと赤ちゃん向けイベントの中で、当プロジェクトの啓発ブースを出展する予定です。他にも産婦人科医院の機器を提供しているタカラベルモントさんの協力で、啓発ツールを置いていただくなど、各企業のアセット(資産)を持ち寄れば、さまざまな接点で、産前・産後ケアを知る機会が増えます」

 産後の女性の幸せはパートナーや子供だけでなく社会全体の幸せにつながると、柴田さんは強調する。春木さんも「産後の女性のことを考えることが、自分の休養の仕方や生き方にも影響すると思うんです。みんなで考えてみることで、世の中がよくなるシステムができるはず。出産を通じて地域とのつながりができたというデータもあります。出産のみならず、人間にはさまざまなライフステージの変化がつきもの。産後ケアで考えたことが、いつか自身の変化を前向きにとらえることにつながるとうれしいです」と展望を語る。

 「出産や産後に対するイメージについて、妊娠、出産経験のない女性に複数回答で聞いたところ、『幸せ』と回答した人は51%。これに対し83%が『大変』と回答しています。幸せの割合を少しでも増やしたい。私たち若い世代が、出産をネガティブにとらえず、人生の選択肢のひとつとして選んでいける社会になればと思います」(下山さん)

 ちなみに、お話を聞いた3人は、出産経験のない3人だったことが最後にわかった。その想像力と世の中をよくしたい思いに応えるには、まずは私たちも知ること!この輪を広げていきたい。

※出典「産後リカバリー白書2022」全国10万人の男女(20~79歳の男女各5万人)に実施した「ココロの体力測定2021」のデータを活用

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産前に比べて情報が少ない、子ども優先で自身のケアに意識が向きにくい、男性も産後うつ状態になりうる…。「産後」ひとつとっても、女性のみならず、パートナーや周囲にも及ぶ、数えきれない課題が山積している。活動開始から一年経った昨年の10月、プロジェクトでは、それらひとつひとつを当事者だけの問題ではなく、社会全体で向き合い解決していくべき「10の重要課題」として提言し、目的に賛同した12社(2024年5月時点)がそれぞれのアセットを活用することで啓発活動を推進している。


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メトロポリターナ編集長
日下紗代子

ココロとカラダのリカバリー!

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Fem Care Project

「フェムケアプロジェクト」は、産経新聞社が主催する、女性の心と身体の「ケア」を考え、よりよい未来につなげるプロジェクト。女性特有の健康課題や働き方について情報発信をしながら考えていく。





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