東京・上野の森美術館で開催中の「ゴッホ展」(産経新聞社など主催)。世界中の美術ファンを魅了する画家フィンセント・ファン・ゴッホの人生に触れたくて、生誕の地・オランダから、終焉(えん)の地・フランスまで、その足跡をたどってきました。
灰色の海を前に
オランダの首都はアムステルダムですが、首都機能は古くから北海沿岸の都市ハーグにありました。王室の宮殿に国会議事堂と歴史ある建造物が並ぶ、美しくも威厳のある街です。大使館や国連の機関も多く、国際司法裁判所のある「平和宮」は、各国の寄付によって造られました。スイスからは時計、ベルギーは門、ドイツは壁…日本は西陣織のタペストリーを寄付したそうです。
権力者と富裕層が集まるところには、作品を売るチャンスを求めて芸術家たちも集まります。なかでも国内外から注目を集めていたのが、「ハーグ派」と呼ばれる農村生活などを静謐に描く画家たちでした。ゴッホも、この地で28歳から約2年間を過ごし、彼らと交流しながら絵の技術を学んだそうです。
ハーグ派が特に好んで描き、ゴッホも度々訪れたという、郊外のスヘフェニンゲン地区(日本語ではスケベニンゲンとも)の海岸を訪ねました。当時は漁業でにぎわっていたそうですが、今や人気のリゾート地。海沿いにレストランやホテルが建ちならんでいます。
レストランのテラスで夕食をとっていると、白くてちょっと大きめの鳥が、食事を終えた隣のテーブルに降り立ち、食べ残しをつつき始めました。店員さんに追い払う気配は全くなく、しまいにはフライドポテトに添えられたマヨネーズまでパクリ。くちばしの先に残っている様子が、かわいらしい。
リゾート地という響きから想像していたのと違い、海は灰色がかり、泳ぐにはためらわれるほどの大きな白波が。辺りを見回すと、訪れた人々はサーフィンをしたり、恋人や愛犬とビーチを散歩したり、寄り添ってのんびり景色を眺めたり。海の楽しみ方は、さまざまあるようです。日が落ち始めると空だけでなく波打ち際まで赤く光り、人々は逆光で暗く、影絵のような幻想的な光景に変わりました。
翌日、都市内にある美術館「メスダフコレクション」で、150年前のスヘフェニンゲンの海を見ることができました。ハーグ派の一人、ヘンドリック・ウィレム・メスダフが描いた、白波の立った灰色の海。人々の暮らしが変わっても、海の姿は変わらないようです。
メスダフは美術品コレクターでもあり、美術館には自身の作品のほか、農夫や家畜の群れなどが描かれた、ハーグ派を中心とする絵画を数多く展示。コレクションは無料で公開していたそうで、「ゴッホもこれらの作品を目にしたのではないでしょうか」と、美術館ガイドのイェット・デ・クネフトさん。素朴な農村の光景を主なモチーフとしていた当時のゴッホは作品を見て、どんな感想を抱いたのでしょうか。
※毎週金曜掲載。次回は、ゴッホが初期の代表作を完成させた地、ニューネンを訪ねます。
協力:KLMオランダ航空(https://www.klm.com/home/jp/ja)
オランダ政府観光局(https://www.holland.com/jp/tourism.htm)
「ゴッホ展」絶賛開催中!
会場:上野の森美術館(台東区上野公園1-2)
会期:2020年1月13日(月・祝)まで。12月31日(火)、1月1日(水・祝)休館
開館時間:9:30~17:00(金・土は20:00、入場は閉館の30分前まで)
入館料:1800円、高校・専門・大学1600円、小・中学1000円
https://go-go-gogh.jp/
フィンセント・ファン・ゴッホ『糸杉』(部分) 1889年6月 メトロポリタン美術館
Image copyright © The Metropolitan Museum of Art.
Image source: Art Resource, NY