東京・上野の森美術館で開催中の「ゴッホ展」(産経新聞社など主催)。世界中の美術ファンを魅了する画家フィンセント・ファン・ゴッホの人生に触れたくて、生誕の地・オランダから、終焉(えん)の地・フランスまで、その足跡をたどってきました。
芸術家の集う聖地
ゴッホは32歳のとき、美術商に勤める弟のテオのもとに転がり込み、パリ・モンマルトルのアパルトマンで暮らし始めました。当時、街にはパリ中心部にはない農村風景を求めて、多くの芸術家が集まったそうです。ゴッホはここで画壇を沸かせていた印象派と出会いました。積極的に同派の技術を取り入れ、オランダ時代の静謐なイメージの画風から脱却。ときには、ピサロやゴーギャンら同派の画家とカフェで芸術談義にふけったそうです。
モンマルトルは今も、いわずと知れた芸術家の聖地。世界中から集まった画家や観光客でにぎわう街の一角に、ゴッホが庭を描いたというカフェが残っています。そしてにぎやかな通りから外れたところに、ゴッホとテオの暮らしたアパルトマン。今も現役ですが、青い扉の横に2人が住んでいたことを示すプレートが掲げられていました。
標高130mの丘とあって、一帯は坂と階段だらけ。散策するだけでいいトレーニングになります。休憩がてら、カフェでゴッホが愛飲していたというお酒「アブサン」をいただきました。ニガヨモギなどを原料とする蒸留酒で、「緑色の妖精」を意味する名前のとおり色はグリーンがかっています。水と砂糖を加えて飲むと、薬草のような風味が。アルコール度数はなんと55度。これでも、アブサンの中では低い方だそうです。
歓喜と狂気の地・アルルへ
わずか2年でパリを後にしたゴッホは、約700km離れた南仏の街アルルに向かいました。強い日差しが、目に映るものの色と輪郭を強調するようです。ゴッホが求めたのは、この明確な色彩だったのでしょうか。理想郷に歓喜するように、有名作を次々と描き上げました。
その一つ「夜のカフェテラス」の舞台は、今も「カフェ ファン ゴッホ」として大勢の観光客でにぎわっていました。作中では、ガス灯の光を反射して壁を黄色く描いていますが、いまは壁自体が黄色に塗られています。
「この絵を描いていた頃が、生涯で最も幸せだったのではないでしょうか」と話すのは、現地ガイドで画家の野澤好夫さん。ゴッホはこの地でゴーギャンとの共同生活を始めますが、うまくいかず精神的な病を患います。
そして自分の左耳を切り落とし、入院することに。病院はカフェテラスから数分のところにあり、現在は図書館や展示会場が入る総合文化施設になっています。四角い中庭はゴッホが入院中に描いた絵のとおりに再現されていました。1年を通して絵に近い色の花を植え、木は枝ぶりまで似せてあるそうです。
アルルはゴッホゆかりの地としてだけではなく、円形闘技場や古代劇場などローマ時代の遺跡が残る古代史ファンにもたまらない街。観光客も多く、お土産にぴったりな雑貨を売るお店がたくさんありました。なかでも人気なのが、マルセイユ石鹸(せっけん)。緑色が体用、白色は洗濯用なので、買うときは要注意です。
※毎週金曜掲載。次回は、闘病の地、サン=レミとオーヴェール=シュル=オワーズを訪ねます。
協力:プロヴァンス地方観光局(https://provence-alpes-cotedazur.com/)
パリ地方観光局(https://www.visitparisregion.com)
フランス観光開発機構(jp.france.fr)
「ゴッホ展」絶賛開催中!
会場:上野の森美術館(台東区上野公園1-2)
会期:2020年1月13日(月・祝)まで。12月31日(火)、1月1日(水・祝)休館
開館時間:9:30~17:00(金・土は20:00、入場は閉館の30分前まで)
入館料:1800円、高校・専門・大学1600円、小・中学1000円
https://go-go-gogh.jp/
フィンセント・ファン・ゴッホ『糸杉』(部分) 1889年6月 メトロポリタン美術館
Image copyright © The Metropolitan Museum of Art.
Image source: Art Resource, NY