浅利さん、映画やドラマってどうして見たくなるんでしょう?[映画とドラマで]


“たかが映画じゃないか”と言ったのは、かの有名なヒッチコック監督ですが、私たちは、映画やドラマの中の物語を通じて、さまざまな体験をすることができます。そのひとときは、まさに旅。たったの1〜2時間で、人生を変えるような作品に出会えるかもしれません。今号の巻頭特集では、始まりの季節でもあるこの春に見たい、映画とドラマをご紹介。まずは本誌でも連載中の俳優・浅利陽介さんにインタビューして、映画とドラマの“中の人”でもある彼に、その楽しみ方について話を聞きました。


──浅利さんって、役者デビューが4歳なんですよね?
おもちゃのお風呂セットのCMで、全裸で出演(笑)。本当は、別の子が出演する予定だったんだけど、その子がぐずってしまって、僕はその後がまだったみたいで、全然覚えてないけど、カメラの前でも楽しそうに遊んでたんですって。

──すでに役者として適性があったわけですね。そのデビュー以来、30年以上浅利さんは役者として活躍しています。大河ドラマも朝ドラも子供時代に経験済み。浅利さんにとって、映画やドラマは、見るよりも先に出演するものでした。それってどんな感覚なんですか?
僕、ヒーロー戦隊作品(※1)に子役のころ出演していたんです。そのころはジャッキー・チェンとかブルース・リー作品が好きで、現場でもスーツアクターの人たちにバク転やバク宙を教わったりしてて。だから友達には、レンジャーは中の人が本当はすごいんだって説明していました(笑)。当時は、ガソリンを使った爆発シーンもあったりして、撮影現場は衝撃の連続でしたね。テレビで見ているよりも、数倍面白い世界でした。

──撮影現場の面白さに惹かれて、自然と役者人生を歩んできたわけですね。
小学生の時に、野球選手になりたいって母親に言ったら、「この仕事が終わってからにしなさい」って言われて、なんだかんだでいまに至りますね(笑)。でも、うまく芝居ができなくて悩んでいた時期もあるんですよ。

──「コード・ブルー(※2)」の頃ですね
当時の僕は、19か20歳。だから自己主張が強いというか、自分が前に出たい!という年ごろで、監督の言うことも素直に耳に入ってこなかったから、周りのみんなに気を配ることが出来なかった。なんか嫌な感じですよね(笑)。それで空回りしちゃって、セリフも頭に入ってこない。NGは連発するわで、だんだん自分のことも嫌になってきて、仕事が嫌いになったこともありました。

──その状況からどうやって脱出したんですか?
もうとにかく、やるだけ。だってOKが出ないと現場が止まっちゃうから、苦しみながら出来ることを模索していきました。それで、撮影が終わったときに、自然と肩の力が抜けたのかな。ドラマもヒットして結果も出たし、たぶん、ちょっと安心できたんでしょうね。だから「コード・ブルー」の1と2だと僕の顔つきも全然違う。

──まさに転機となる作品だったわけですね。浅利さんは、それこそ数えきれないほどの作品に出演していますが、逆に作品を見るときの視点についても話を聞かせてもらえますか。というか、テレビや映画って見ますか?
見ます見ます!大好きですよ。映画やドラマを見たら、先ずはロケ場所チェック。そして画角とかカット割りとかを確認しながら、そうきたか!とか、ここはもっとこうしたほうがいいんじゃない?みたいなことを実況中継ようにペラペラ喋ったりしてますね。一緒に見ている人にはうるさいって言われますけど(笑)。

──完全につくり手目線(笑)。作品世界に没入して純粋に楽しむということは、あるんですか?
日本のテレビドラマは知り合いが多く出ているのでなかなか難しいけれど、アニメや海外作品の方が集中して見られますね。高校生のころは『レイジング・ブル(※3)』とか、ロバート・デ・ニーロ作品をよく見ていました。デ・ニーロがめちゃくちゃかっこいいんですよ。最近だと『ボバ・フェット(※4)』を見て、俺も強くあらねば!と思いました。あとは、トトロ(※5)。子供が好きで一緒に見るんですけど、マックロクロスケのお引越しシーンで、もうウルっとしちゃう(笑)。

──郷愁というか、子供のころの夏休み気分みたいなものも思い出しますよね。心が動かされる。
そうそう。僕、人がなんで映画やドラマを見るのか、中高生くらいのときに考えたんですよ。たぶんですけど、「知らない世界」を見られるからなんじゃないかなって。もっと言えば、作品を通じて物語や感情を追体験できるから。こんなに真剣な人がいて、こんなに戦っている人がいるということを知ることができるし、こんなに楽しいことがあるんだってわかれば、じゃあ明日も頑張ろうって気持ちになれる。

──泣いたり笑ったり考えたり、いい作品は何かしら感情を動かしてくれますよね。
あとは同じ作品でも、見る人によって全然受け止め方が違ったりもするから、それを誰かに話して共有するのも面白いですよね。それも映画やドラマを見る醍醐味だと思うんです。余談ですが、僕は演技をするときは新鮮さというか、フレッシュであることを大事にしています。撮影や舞台では、僕ら役者は何度も何度も同じことを繰り返します。それって、やっぱり慣れちゃうんですよ。でも、こっちの気持ちがフレッシュじゃないと、笑いや感動は起こらない。演じていることを感じさせずに、いかに鮮度のいいものを届けるか。そんなことを大事にして演技をしていますね。すっごい難しいんですけど(笑)。


※1「電磁戦隊メガレンジャー」 1997年テレビ朝日系列で放送
※2「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」(1st season)2008年フジテレビ系列で放送
※3『レイジング・ブル』 1981年日本公開のアメリカ映画
※4『ボバ・フェット/The Book of Boba Fett』 2021年ディズニープラスで配信開始
※5『となりのトトロ』 1988年劇場公開

 

浅利陽介 Yosuke Asari

1987年8月14日生まれ。東京都出身。4歳で子役デビューし、役者としてのキャリアは30年以上。出演作品は映画とドラマだけでも100作品を超える。大のバスケ好きで、本誌でもBリーグ選手へのインタビュー連載を継続中。いつかは、監督デビューの夢もあり。


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