メタバース空間で行われた取材。右のアバターが國光さん、左の編集部員のアバターは、本誌マスコットキャラクターのリターナちゃんをイメージしてつくったもの。

好きな世界を選び、好きな姿で生きることができる[超入門メタバース]

カルチャー

 最近よく耳にするようになった「メタバース」という言葉。なんだかすごそうだけど、詳しくはわからない…。果たして、私たちの生活はどう変わるのか?メタバース業界のキーパーソン4名に話を聞きに行きました!


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Thirdverse,Inc. CEO
國光 宏尚さん

1974年生まれ。2007年にモバイルゲーム会社「gumi」を設立。2021年7月に同社を退任し、同年8月より株式会社Thirdverseおよび株式会社フィナンシェの代表取締役CEOに就任。VRゲームの開発を足掛かりに「10億人が生活する、新しいメタバースの創造」を目指す。今年3月に『メタバースとWeb3』(エムディエヌコーポレーション)を刊行。
 

メタバースってなんだろう?

 昨年の10月28日に、あの「Facebook」が社名を変更した。新しい名前は「Meta(メタ)」(※1)だという。その日、マーク・ザッカーバーグのフィードに投稿されたテキストには、次のようなことが書かれていた。メタバース(※2)では、想像できることはほとんどなんでもできるようになり、友人や家族と集い、働き、学び、遊び、買い物をし、創作をすることもできる。今後10年以内に、メタバースが10億人の人々に受け入れられ、その中で数千億ドルの取引が行われるようになるはずだと。そんな未来を実現させると、彼らは宣言した。

 この事件”がひとつのきっかけとなり、メタバースの注目度は急上昇。頭にヘッドマウントディスプレイ(HMD)(※3)をかぶって、3D仮想空間内をアバター(※4)の姿で歩いたりゲームをしたり。そんな様子がメディアで紹介される機会も増え、メタバースの雰囲気はなんとなくわかったけれど、実際それがどんなもので、どんな体験なのか、よくわからないというのが正直なところ。果たして、私たちの生活はメタバースでどう変わるのか?それが知りたくて、まずはこの分野のトップランナーのひとり、サードバースの國光宏尚さんに話を聞きにいった。

國光:メタバース(Metaverse)という用語は、「超越した」という意味を持つ「Meta」と、「世界」という意味を持つ「Universe」を組み合わせた造語です。この言葉が初めて使われたのは、アメリカで1992年に発表されたSF小説の『スノウ・クラッシュ』(※5)だと言われています。この作品内において、メタバースは「インターネット上の仮想空間」として扱われていて、その中でユーザーたちは、アバターを操作し、自由に空間内を移動したり、ほかの参加者とコミュニケーションを取ったりしています。同様に、スティーブン・スピルバーグ監督の『レディ・プレイヤー1』(2018)や細田守監督の『サマーウォーズ』(2009)、『竜とそばかすの姫』(2021)もメタバースの世界観を描いた作品です。このような、かつてはSFでしか描かれてこなかったメタバースという世界が、VR(※6)・AR(※7)・MR(※8)といったテクノロジーの進化によって、いま現実味を帯びてきています。Facebook社が2020年に発売したHMD「Oculus Quest 2」(現Meta Quest 2)も早いペースで売れていて、だからこそ彼らもメタバースで勝てると確信し社名を変えたのだと思います。

重要なことは
いまそこにいるという感覚

 コロナ禍における移動制限と新しいコミュニケーションの模索は、メタバースブームの推進剤となり、いま世界中で、メタバースの活用事例が増えている。

 たとえば、バーチャルライブ。2020年4月にオンラインゲーム「Fortnite」内で開催されたアメリカの人気ラッパー、トラヴィス・スコットのバーチャルライブでは、スコット氏の3Dモデルが登場し、火の雨や水中世界、宇宙空間のような仮想空間の中でライブが行われ、参加者は1200万人を超えた。

 また、今年3月にはVRプラットフォーム(※9)の「Decentraland」で「Metaverse Fashion Week」が開催された。ラグジュアリーブランドが、メタバース空間でアバターをモデルにランウェイショーを行った。コレクション作品はNFT(※10)化し、購入も可能になるという。

 メタバース参入の動きは、エンターテイメント、ファッションだけではなく、旅行といったレジャーや教育など多くの分野でも進んでいるが、いまはまだ実験的な試みも多いというのが正直な印象。けれど、それも時間の問題だと、國光さんは言う。

國光:メタバースで重要なのが、「Sense of Presence」。「いまそこにいる」という実在感です。コロナ禍でオンラインミーティングが普及しましたが、一時期流行ったオンライン飲み会をいまやっている人ってほとんどいませんよね?これは、食事をしたりお酒を飲んだりすることは、画面越しでは楽しくないから。つまり「そこにいる感じ」がしないからだと思います。これでは、「仲良くなる」とか「好きになる」といった人との関係性をうまく構築することができません。この実在感を埋めるためには、「レゾリューション(解像度)」と「レスポンス(反応速度)」が重要になってきます。

 解像度は画質が良くなれば良くなるほど、そこにいる感じがします。片側の目で4Kずつの解像度があれば、バーチャルと現実の区別がつかなくなると言われていますが、これはそう遠くない未来にハードウェアのスペックが上がれば解決されると思います。

 レスポンスについては、みなさんオンラインミーティングで会話がかぶったり、お互いが無言になってしまうという経験を思い浮かべてみてください。これは、うなずいたり、まばたきしたりといった、表情の情報がリアルタイムで伝わらないことに起因します。人の会話のかなりはノンバーバル(言葉を使わない)部分に依存しているため、そこがうまく伝わらないと実在感が出てきません。最新のHMDでは、まばたきやうなずきをアバターにかなり正確に反映できるようになってきています。

 「Sense of Presence」は、2Dだと限界がありますが、メタバースのVR空間では高いレベルでつくり出すことができるようになります。その結果、バーチャルであってもリアルと変わらない人間関係を築くことができるのです。

メタバースがもたらす
20年後の未来予想図

國光:メタバースが行き着くのは『レディ・プレイヤー1』のVRワールド「オアシス」のような仮想空間です。その中では、ゲームをするだけではなく、友人をつくったり学校や仕事に行ったり、NFTによる新たな経済圏もある。そんなメタバース空間で将来的には多くの人が、たくさんの時間を過ごすことになると私は考えています。

 その理由のひとつとしては、外見に縛られなくなるということです。年齢も性別も人種も関係なく、好きな外見を自分で選べて、複数持つことだってできる。しかも、その姿に合わせて、性格や個性といったものだって変えることができます。こうありたいと思っていても、現実世界ではなかなか叶わない自分の理想の姿を、メタバースでなら実現できる可能性があるんです。

 そして、コミュニティも自分で選ぶことができます。私たちは学校や職場で出会った人の中から、気の合う人間と友人になりますが、これって極めて狭い範囲から友人を選んでいるとも言えるんですよね。つまり、現実世界ではコミュニティに縛られて生きているとも言えます。でも、メタバースだったら、自分と同じような趣味嗜好を持った人たちが集まるコミュニティに参加して、その中から友人を探し出すことができる。

 外見、性格、コミュニティから解放されて、好きな自分で好きな世界を自由に生きることができる。それがメタバースの大きな可能性だと思います。しかも、物理的な移動がないから、サステナブルでもありますよね。

 いずれは、これまでのリアルが主でバーチャルが従という世界が逆転する。バーチャルファーストな世界がやってくると私は思っています。

 國光さんの予想によると、今後20年以内には、リアル世界のGDPをバーチャルな世界のGDPが超える可能性もあるという。そのとき私たちはどんな世界を生きているのか?想像をはるかに超える未来が訪れるかもしれない。

 

※1 Meta
Facebookから名称を変更したアメリカの企業。現在の正式名称はMeta。ヘッドマウントディスプレイ「Meta Quest 2」やメタバース空間のビジネスツール「Horizon Workrooms」を提供し、メタバース界のリーディングカンパニーへとその姿を変貌中。会長兼CEOは、マーク・ザッカーバーグ。

※2 メタバース
VR・AR・MRといったデジタル技術によって創造された、もうひとつの世界。人々はアバターの姿でその世界に滞在し、将来的には経済活動が行われ社会性のある世界が構築されるとも言われている。Meta社のメタバースである「Horizon Worlds」では、ユーザーが自作したアバター用のファッションアイテムなどを販売できるようになると先日発表された。

※3 ヘッドマウントディスプレイ
頭部に装着するディスプレイのこと。VRゴーグルなどとも呼ばれ、装着することで没入感のある3D映像を楽しめる。メタバースを楽しむための必需品。代表的なものにMeta社の「Meta Quest 2」があり、その価格は容量128Gのモデルが3万7180円。

※4 アバター
「化身」という意味を持つ、サンスクリット語のアヴァターラが語源となっている言葉。仮想空間では自分の分身として、さまざまな行動を行う。初心者でも、顔のパーツや肌色、体型などをテンプレートから選ぶだけで作成することができる。知識があれば、ゼロから3Dモデルを構築することも可能。

※5 スノウ・クラッシュ
アメリカのSF作家、ニール・スティーヴンスンによる小説。メタバースという言葉を生み出し、現代の技術者たちに影響を与えた書として近年再び注目を集め、今年1月に早川書房から翻訳版が復刊された。

※6 VR(Virtual Reality)
仮想現実。3DCGなどの技術によって、デジタル空間上に構築されたリアルな体験ができる場所。その世界により没入して楽しむためにはHMDの装着を推奨。人によっては、VR酔いという現象もある。

※7 AR(Augmented Reality)
拡張現実。VR技術がメタバースをつくり出すのに対して、ARは現実世界にデジタル的な情報を付加し拡張させたもの。2016年に登場したスマホゲーム「ポケモンGO」でもAR技術が用いられた。

※8 MR(Mixed Reality)
複合現実。現実世界にホログラム技術などを使い、映像を投影することで実現する世界。マイクロソフト社の「Microsoft HoloLens」では、ホログラムの3D映像を、手などを使って操作することもできる。

※9 VRプラットフォーム
ユーザー同士がコミュニケーションを取れるVR空間を提供しているサービス。「VRChat」や「Decentraland」、日本発のサービスとしては「cluster」がある。

※10 NFT(Non-Fungible Token)
非代替性トークン。画像や動画、美術品などのコピーが容易なデジタルデータに対し、ブロックチェーン技術を活用することで、唯一無二の資産価値を付与したもの。新たな売買市場を生み出す技術として、2021年に大ブレイク。関連ワードにWeb3などもあるが、この話だけで本が一冊書けるほどなので、詳しくはぜひ國光さんの著書で確認を。


取材もメタバース空間で!

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 取材は、Meta Quest 2を装着し、Meta社の「Horizon Workrooms」というミーティングツールのアプリを使って行った。VR空間上の会議室は、眺望抜群のビルの高層階やビーチサイドなど、いくつかの空間の中から選ぶことが可能。リモートデスクトップ機能を使えば、自分のPCをVR空間上で操作したり、部屋の中にあるホワイトボードに画面の共有もできる。音質もかなりクリアで、相手の声は座席位置や視線方向によって正面や横から聞こえてきたりと、本当に“そこにいる感じ”がした。


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 起業以来の大苦労の末に完成したという、今年3月に発売された國光さんの著作。メタバースやブロックチェーンといった技術が世の中にどんな変化をもたらすか、過去から現在、そして未来へと続く流れを体系的に理解することができる。とてもわかりやすい解説だ。

『メタバースとWeb3』
著:國光宏尚
エムディエヌコーポレーション 2180円




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