漢方の基本を知ったところで、その選び方についての理解も深めておきたい。悩んでいる人も多い3つの症状別に、代表的な漢方薬をご紹介!
漢方薬、どう選ぶ?
漢方初心者にとって、自分にあった漢方薬を見つけることは、難しい。本来の漢方とは、田原先生の話にもあるように、漢方に詳しい医師がその人の心身の状態、生活習慣、症状などを細かく調べることで、はじめて漢方薬が必要か否かを判断したり、その人に合う漢方薬がわかったりするからだ。いまでは「風邪ぎみの人には葛根湯」といったように漢方薬の認識が広まってきたけれど、同じ症状であっても、体質や症状の原因によって選ぶべき漢方薬は異なることもある。このページでは、悩んでいる人が多い「頭痛」「むくみ」「冷え」の3つの症状をピックアップ。なかでも、何が原因で起こっているのか、併せて感じているほかの症状があるか、といった状態別にわけて、一般的に使われることが多い漢方薬をご紹介!
①頭痛
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□頭が重く、押さえつけられているように痛む
□朝起きるのがつらい
□めまいや立ちくらみがする
□急に立ち上がったときにサーっと血の気が引いていく感覚がある
□動悸や息切れがする
これに当てはまる人は…
《苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)》
めまいを伴う頭痛に
水の巡りが悪くなっている状態。水が身体の上のほうに溜まってしまい、気の巡りを妨げることにより、頭痛、めまいや立ちくらみといった症状が表れる。「苓桂朮甘湯」は、体内に溜まっている水分を尿として排出することで水の巡りをよくする漢方薬。さらに気の上昇も助けてくれるため、エネルギーが足りずにフラフラしてしまう人、水の停滞による頭痛がある人に効果があるとされている。
▼CHECK
□冷え性である
□冷たいものを食べると頭が痛む
□繰り返すズキズキとした偏頭痛に悩んでいる
□痛みがひどいときは嘔吐してしまうこともある
□動悸や息切れがする
これに当てはまる人は…
《呉茱萸湯(ごしゅゆとう)》
ズキズキする偏頭痛もちに
体内に水分が溜まってしまい、その水が身体を冷やして「気血水」それぞれの循環が悪くなっている状態。体力が平均よりも低く、手足の冷えを感じている人に多く、頭痛のほかにも肩こりやみぞおちあたりの痛みがともなうことも。「呉茱萸湯」は、身体の中心となるおなかを温めて代謝をよくすることで、血の巡りをよくするもの。巡りが改善することで、痛みの原因を循環して排出し、頭痛を和らげてくれる。
▼CHECK
□朝起きると頭痛がする
□最近、十分な睡眠が取れていない
□ストレスフルな毎日を送っている
□なんだかイライラして常に気が立っている
□高血圧ぎみである
これに当てはまる人は…
《釣藤散(ちょうとうさん)》
慢性的な頭痛に悩む人に
ストレスで心身に負担がかかり胃腸の働きが弱まることで、エネルギーとなる気や熱を運ぶ血が不足している状態。イライラ、めまいなどの症状がある人に適している。「釣藤散」は、気と血の巡りをよくすることで、ストレスや睡眠不足からくる精神の乱れを整え、心身の緊張状態を和らげるもの。血行が促されることで栄養が全身に行き渡り、精神の乱れが整うため、頭痛が和らぐとされている。
②むくみ
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□水分を摂っているのに尿量が少ない
□胃に水が溜まってチャポチャポしている
□吐き気や嘔吐、腹痛などの症状もみられる
□飲み過ぎ、二日酔いである
□お酒を飲んだ翌日に顔がむくむ
これに当てはまる人は…
《五苓散(ごれいさん)》
さまざまなタイプのむくみに
水分の摂りすぎによって、水が体内で停滞している状態。「五苓散」は、利尿作用があるさまざまな生薬を配合しているため、むくみ症状のファーストチョイスとして使われることが多く、さまざまなむくみに効果があるとされている。余分な水分を排出して体内のバランスを整えてくれるほか、胃腸の働きを助けて水分の吸収を促す効果も。トイレに行く回数が少ない人などのむくみに向いている。雨降り前の頭痛にも有効。
▼CHECK
□常に身体がむくんでいる
□痩せ型で疲れやすい
□足腰の冷えがある
□貧血ぎみである
□月経不順や月経痛、PMSなどの症状がある
これに当てはまる人は…
《当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)》
生理の悩みもある人へ
血が不足したり滞ったりすることで、全身に十分な栄養素が行き渡っていない状態。血の巡りが悪くなることで水が停滞し、溜まった水分がむくみにつながったり、身体を冷やして足腰の冷えや月経不順などを引き起こしたりする。「当帰芍薬散」は、体内の余分な水分を排出し、「水」や「血」の巡りを良くして症状を改善する働きをもつ。むくみに加えて月経にまつわる症状が表れている場合は、この漢方薬が選ばれることが多い。
▼CHECK
□食べすぎているわけではないのに肥満ぎみ
□汗っかきである
□体力がなく疲れやすい
□胃腸が弱く下痢をしやすい
□寝ても疲れが取れない
これに当てはまる人は…
《防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)》
摂るのに出ない…などに悩む人へ
色白で汗かき、暑がりで寒がりな肥満傾向の人に多い。体内で水分が停滞しているほか、筋肉量が少なく余分な脂肪が分解されにくくなっている状態。「防已黄耆湯」は、利尿作用や血行促進効果が期待できる生薬が配合されているため、水と血の巡りをよくしてむくみを改善。時間の経過とともに足がむくんで靴が入りにくくなることがある、肌を押すと押した跡がしばらく残る、といった強いむくみ症状がみられる場合にも効果を発揮する。
▼CHECK
□胃腸が弱く、下痢をしやすい
□食欲がない、胃もたれがする
□口が乾いている感じがする
これに当てはまる人は…
《胃苓湯(いれいとう)》
お腹の調子もよくない人に
冷たい食べものを摂りすぎたりして身体が冷えると、食べものを消化するために必要な熱が奪われて水分が溜まり、むくんだり、消化不良により下痢や軟便の症状が表れている状態。一般的に胃腸の症状に使われることが多い「胃苓湯」は、もともと水をためやすい(むくみやすい)体質の人が、食べ過ぎたときに用いる。余分な水分を排出しながら、胃腸の働きを助けて、正しく水分が循環していくように整えてくれる。
③冷え
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□冷えとのぼせ感が両方気になる
□不安を感じたり、イライラしたりすることがある
□虚弱体質で疲れやすい
□肩がこる
□ときに便秘の症状が表れることも
これに当てはまる人は…
《加味逍遙散(かみしょうようさん)》
疲れとイライラも感じる人へ
気の巡りが悪くなることにより、溜まった気が熱に変わってのぼせたり、急に冷えたりと体温のバランスが崩れてしまっている状態。ホルモンバランスの乱れによることもある。「加味逍遙散」は、血行を良くして身体の隅々まで熱を行き渡らせて、溜まった熱を逃がし、体温のバランスを整えて冷えやのぼせ感を改善してくれる漢方薬。血の巡りをよくしてくれることから、月経にまつわる症状についても効果が表れやすいと言われている。
▼CHECK
□寒がりだ
□手足がとにかく冷える
□お腹周りの冷えと腹痛の症状もある
□冷えによって腰痛や頭痛の症状も表れる
□霜焼けができやすい
これに当てはまる人は…
《当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)》
末端の冷えがつらい人へ
交感神経緊張により末梢の循環が悪いことから、熱が巡らず、さらに冷えることで血流も滞り、炎症が起きて頭痛や腰痛を招いてしまっている状態。「当帰四逆加呉茱萸生姜湯」は、血と一部水の巡りをよくして身体(とくに手足と下腹部)を温め、冷え症を改善してくれる。また、身体の内側に働きかけて筋肉の緊張を和らげる生薬も入っているため、腰痛などの痛みを改善する効果も期待できる。
▼CHECK
□体力がなく血色がよくない
□胃のあたりがつかえている感じがする
□胃もたれや胃痛、下痢などの症状もある
□食欲がない
□痩せぎみである
これに当てはまる人は…
《人参湯(にんじんとう)》
胃の調子も悪い人へ
水が胃に停滞して、胃腸から冷えている状態。「人参湯」は、胃腸を温めて働きをよくする生薬や、水の巡りをよくする生薬などが配合され、体内の水分を循環・排出して胃腸を動かし、温めて冷えを改善してくれる。胃腸が弱り消化吸収力が落ちると、気の巡りも悪くなってしまう。冷えや胃腸の症状がつらかったり、疲れやすくなったと感じた場合に、この漢方薬が選ばれることが多い。
▼CHECK
□長年、冷え性に悩まされている
□低血圧でめまいや立ちくらみの症状もある
□全身型の冷え症
□倦怠感があり、やる気が出ない
□尿の量・回数が少ない
これに当てはまる人は…
《真武湯(しんぶとう)》
フラフラして低血圧の人などへ
血と水の巡りが悪く、溜まった水分が身体を冷やして胃腸の働きを悪くさせたり、血流が悪くなることで全身に栄養がまわらずに疲れやすくなったりしている状態。「真武湯」には、新陳代謝を高める生薬や利尿作用のある生薬が配合されていて、血行を促して余分な水分を排出することで、冷えをとり、身体を温めてくれる。血の巡りがよくなることで栄養が全身に行き渡り、虚弱体質の改善や疲労感軽減の効果も期待できる。