CASE STUDY
「僕がメイクを始めた理由」
メンズメイクというジャンルが登場したのは、決して最近のことではない。2010年代の中ごろには、雑誌でメンズビューティの特集はすでにあった。けれど、それはまだまだ一部の人向けのもので、風向きが一気に変わったと感じたのはコロナで移動規制が始まったころからだ。リモートワークで、自分の顔面をまざまざとモニターで見ることになった男性は、顔を整えることの重要性に気づき、同時期に美しくメイクをするK-POPグループたちが世界を席巻。ダイバーシティやジェンダーレスといった価値観の普及も後押しして、男性がメイクをすることは、特別なことではなくなってきた。大袈裟に言えば、「男がメイクなんて恥ずかしい」というジェンダーバイアスからの解放だ。新たに開けた世界を、これから男性たちはどう楽しんでいくのだろうか。先駆者である、池田さんの経験から、未来を想像してみよう。
お笑いコンビ「レインボー」
池田直人
1993年、大阪府生まれ。2016年に、相方のジャンボたかおとお笑いコンビ「レインボー」を結成。2018年に「ぐるナイ おもしろ荘」(日本テレビ系)で優勝後、人気バラエティ番組に数多く出演する。YouTubeチャンネル「レインボー池田直人の美しちゃんねる」では、芸人へのメイク企画や美容に関する情報発信を行い、女性を中心に人気を集めている。
My First MAKE-UP
お笑いのために始めたメイク。
追究するほどに楽しめるように
もともとメイクにはまったく興味がなくて、ハタチのときは眉毛もつながっていたくらいでした。同期の間でも、いもくさいで有名やったんですよ。でも、コントで女の子役をやるようになってから、「すね毛生えてたらあかんな、なんか違和感やな」、「ヒゲが青かったら女の子らしくないな」と気になるようになってきて。これまでも、きれいやかわいいと言ってもらうことが多かったので、だったらもっときれいになってみようかなと思い、メイクを始めました。そうするうちに、カラーメイクをして、脱毛に行きはじめて…と探究していきました。
女芸人や美容系YouTuberに話を聞いたり、美容雑誌を読んで気になる商品を買ったりして情報収集をしていくうちに、メイクの基礎をしっかり勉強していこうと思い、メイクアップアドバイザーの資格を取って。今年は、日本化粧品検定1級にも合格しました。すると、商品をおすすめされたときに何がいいのかを考えるようになり、より納得してコスメを使えるようになったんです。骨格の勉強をしたことで、「なんでここにシェーディング入れるんやろう」、「ここにハイライト入れたらどんな効果があるんやろう」といった疑問を理解したうえでメイクできるようになったのは、いいことやなって。さらにメイクの幅が広がった気がします。
トレンドや新商品を取り入れるために、ネット通販を見たり、お店やデパートのコスメ売り場を見たりして買っては、いろんなメイクを試しています。自宅の引き出しがいっぱいになってきて、そろそろ断捨離せなあかんなと(笑)。女性用の商品はもちろんですが、男性用のコスメも使っています。最近は男性用の涙袋ライナーを試しました。女性が涙袋を描くときは、しっかりラインやラメを入れて立体感を出すけれど、男性用は”さりげなさ”を意識しているものが多いので、細くて自然なラインが描けるんです。女性ものと比べると、より男性が取り入れやすい工夫がされているなと思います。
カラーメイクは舞台上のみ。
池田流・メイクとの向き合い方
プライベートでも、日焼け止めや下地などのベースメイクをして出かけています。僕としては、「髪の毛に寝グセがついてたら、直してから外出せなあかんよな」と思うのと同じくらいの感覚で。身だしなみを整えることのひとつとしてとらえています。その一環として、元の自分をもっときれいにしたいと思い、インナーケアにも力を入れています。メイクを始めてからというもの、コンディションの細かな変化にも気づけるようになりました。血液検査の数値を見て足りない栄養をサプリで補ったり、肌のためにビタミン剤を飲んだりしています。お酒を飲み過ぎたり食べ過ぎたりすると体にどんな変化があるかも、だんだんとわかるようになってきました。
日ごろからメイクはするけれど、アイシャドウやリップなどは、コントで女の子役をやるときにしか使いません。普段からカラーメイクをしてしまうと、女の子役をやるときに自分との違いが曖昧になる気がして。フルメイクをすることは、僕にとって仕事のスイッチを入れてくれるきっかけのひとつになっています。
最近、高校生の恋愛リアリティ番組のMCをやらせていただいているのですが、いまの高校生たち、すごいんですよ。涙袋を描いたり、とってもキラキラしていて。一人ひとりが思う「きれいになりたい」、「かっこよくなりたい」という気持ちを感じて、すごく共感しました。僕は公私でメイクの仕方を変えているけれど、仕事で女の子役をやっていなかったら、彼らみたいにフルメイクをしていたかもしれません。
メンズメイクは1.5割増し。
ちょっと素敵な自分に出会える
メイクは楽しいものなので、自分が好きでやっていて満足しているならば、どんなメイクでも素敵だと思います。歌舞伎町のホストの方のメイクを見ても勉強になって、マネしてみようかなと思うこともあります。ひとつ僕が感じているのは、「隠すメイクではなく、映えるメイクをしてほしい」ということ。たとえば肌荒れが気になるのなら、まずはメイクで隠して、並行してインナーケアも頑張る。そうして肌が整えば、メイクがもっと楽しくなるはずです。
メンズメイクって、“1.5割増し”が大事だと思うんです。少しやってみるだけで、自分の顔の好きなところや隠したいところがわかって、より良くするきっかけになる。フルメイクをしてまったく違う自分にならなくても、「いまよりちょっと素敵な自分に出会いましょう」くらいの感覚でいてほしいなと思います。
なかには、メイクに抵抗がある男性もいるかもしれません。実際に僕も、女性から「男性のメイクを受け入れられない」と言われたことがあります。けれど、きっとそんな方の想像するメンズメイクは、陶器肌にカラーメイクのようなフルメイクだと思う。でも、それだけじゃなくて、日焼け止めや下地を塗るだけでもメンズメイクなんだよって言いたい。
ほんの少し変わるだけでも、前向きになれる。「いつもの自分よりちょっときれいになれればいいな」という気持ちで、メイクを楽しんでほしいなと思います。