男性×育休[メンズ研究]


 男性の家事・育児参加がどんな社会をつくるのか?家族社会学を専門とする中里英樹教授が解説!


REPORT
「男性×育休」

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中里英樹先生
甲南大学文学部社会学科教授。京都大学文学部卒業、京都大学大学院文学研究科博士後期課程研究指導認定退学。専門は家族社会学。近著に『男性育休の社会学』(さいはて社)がある。
 

男性の育休取得が増加中。
家事・育児参加をする男性が増えれば、
ジェンダー平等にもつながります。

 日本では、「男は仕事、女は家庭」という考え方が根強い。この概念が生まれた背景には高度経済成長期以降進んだ核家族化と働き方のサラリーマン化があり、それによって男性は会社で仕事をする、女性は家事や子育てに専念するという固定的な役割分担が広まった。

 それから半世紀以上が経った今、ジェンダー平等が叫ばれて女性の社会進出や多様化が進み、男性の育児休業(以下、育休)取得率も上がりつつあるが、まだまだ十分ではない。

 「『男は仕事、女は家庭』はごく短期間に生まれた概念です。高度経済成長期以前は大家族で仕事も子育てもみんな一緒に協力してやっていた歴史を知れば、現状を変えることはそんなに難しくないはずと思えます。そこで『男性の育休』は、誰もが生きやすい社会にするための重要な手がかりになると考えています。男性が育休を取る際に重要なのは、単なる母親のサポーターではなく、一人で子育てを体験すること。それができて初めて子育ての担い手といえます」

 そう語るのは、社会学者の中里英樹先生。男性が育休を取って家事・育児を主体的に担うことで、それまでの女性の苦労や、子どものケアを母親本人がやりたいことだと思い込んで押し付けていたことに気づくきっかけになるという。これまで感じたことのなかった生きがいや充実感を得ることができ、「仕事が最優先」という固定観念を手放すことにもつながる。父親と入れ替わりで母親が仕事に専念することになれば、女性も、子供の成長を見る喜びを知らずに働き続ける男性の気持ちを想像するきっかけになる。

 「『社会人である限り、仕事を最優先しなければならない』という思い込みから、誰もが自由になることが大切です。そうして一人ひとりの意識を変えることも必要ですが、もっとも重要なのは社会制度を変えていくことです」と中里先生。出産直後の休業は夫婦で一緒に取ったとしても、その後の育休は交代で取れる仕組みや、復帰後も子育てのワンオペが生まれないように、勤務時間をフレキシブルに調整するなど、ゆるやかに働ける制度が必要だ。それは社会全体のワーク・ライフ・バランス(仕事と生活のバランス)の向上にもつながる。

 「日本では、子供の看護休暇は小学校就学前まで年間5日ですが、スウェーデンでは12‌歳未満まで年間120日です。本来なら看護休暇が年間5日で済むなんてありえないけれど、それでもこの制度が許されているのは、母親が常に家にいて子育てを担うのが前提とされる社会だからです。今後は、それまで縛り付けられていた役割から、自由になれる社会にしていかなければならないと思います」。

 みんなが生きやすい社会制度づくりに意識を向け、想像力を磨き、自分の中にある思い込みに気づいて手放していこう!

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『男性育休の社会学』(さいはて社)

男性育休取得率向上の先に、われわれは何を目指すべきなのか? 日本、ドイツ、北欧での調査をふまえ、育児をめぐる文化や言説、制度の内容、改正のプロセス、実践について分析し、構造転換に向けて方策を提示する。ジェンダーにとらわれない子育てと夫婦のワーク・ライフ・バランスを模索し続けてきた中里先生による、集大成的大著。


White Paper on IKUKYU

積水ハウスが2019年から始めた、企業で働く男性の育休取得実態を探る「男性育休白書」。47都道府県の父親と母親9400人に聞いた2023年度版の調査結果を見てみよう。

■男性の育休取得率
24.4%

5年間で約2.5倍!
男性の4人に1人が育休を取得

男性の育休取得についての調査によると、育休を取得した男性は全体の24.4%と、ほぼ4人に1人が取得している。男性育休白書を開始した2019 年の育休取得率は9.6%。この5 年間で男性の育休取得率は約2.5倍にも伸びていることがわかる。

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■男性の育休日数
平均23.4日

5年間で約10倍!
男性取得者の4割が「1カ月以上」取得

育休を取得した男性の育休取得期間は、2019年は63.7 % が「1週間以内」で、「1カ月以上」取得したのは 13.1% しかいなかった。しかし、 2023 年は半数近い44.7% が「1カ月以上」を取得。「6カ月以上」も2 割を超えた。 2023年の男性の育休取得日数は平均23.4日と、2019年の平均2.4 日から約10倍も長くなっている。

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「男性育休白書」

 男性育休白書は、積水ハウスが発行する男性の育休取得に関する調査レポート。男性の育児休業取得をよりよい社会づくりのきっかけとしたいとの思いから、9月19日を「育休を考える日」として記念日に制定し、2019年から企業で働く男性の育休取得実態を探っている。2023年度版では、、恒例の「男性の家事・育児力」全国ランキングに加え、これまでの白書を振り返り、男性育休取得の変化をレポートしている。

男性育休白書2023
https://www.sekisuihouse.co.jp/ikukyu/research/






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