新体験のゾクゾクが楽しめる
第四の壁を越えるべし!
クリエイター・藤澤仁さんが率いる「第四境界」。彼らが生み出す、感情を揺さぶる新体験のゲームに、いま世の中が熱狂している。
そもそもARGとは
どんなものなのか?
『人の財布』は、2023年にリリースされたARG(代替現実ゲーム)だ。オンラインサイトでこのゲームを購入すると、実物の財布がユーザーのもとに届き、その中にある学生証やレシートを手がかりに、ある事件と財布に秘められた持ち主の思いを解明していく。そんな新たなゲーム体験は瞬く間に話題となり、『人の財布』は発売後即完売。その後、何度か再販されているが入手は困難な状況だ。
このゲームを開発したのが「第四境界」というプロジェクトチーム。率いるのは、かつてドラゴンクエストシリーズのディレクターを務めていた藤澤仁さんだ。
「ARG自体は決して新しいものではなく、2001年のスピルバーグ映画『A.I.』のプロモーションが起源と言われています。意外性をついた手法であり、立て続けにやると飽きられてしまう。それ故に、ARGは、数年に一度誰かがやる、という程度の特殊なプロモーション手法に長らく留まっていました。それに、収益化の方法も確立されていませんでした」
そんなARGに藤澤さんが本格的に取り組むきっかけとなったのが、2016年にリリースされた『予言者育成学園』というゲームアプリ。今年のレコード大賞、流行語大賞を当てるなど、現実の世界でこれから起こることを予想し、正解するとレベルが上がっていくという、現実とゲーム世界の融合を試みたゲームだ。
「当時はまだ、ARGという言葉も知らず、リアル連動ゲームと名づけましたが、この言葉に僕のやりたいことが集約されています」
その後、SNSなどの新しいメディアも普及し、リアルと仮想の境界をうまくカモフラージュできる時代がやってきていた。それまでプロモーションにしか活用できなかったARGに、より大きな可能性を感じた藤澤さんは、その後の2022年に、XやYouTubeといったSNS上で物語がリアルタイムに展開するミステリーARG『Project:;COLD』をリリースする。
「ゲーム機やパソコンなどを使わず、自分たちが普通に生活しているうえで用いているものだけを使って物語を描けるのではないか。そうすれば、自分たちと同じ世界に生きているという実在感を表現できるのではないか。そんな発想が出発点となって生まれた作品です」
そのストーリーは大きな反響を呼び、それをきっかけに「第四境界」というチームが立ち上がった。その後「第四境界」は、冒頭の『人の財布』や「ある少年院」を舞台とした“体験型モキュメンタリー”であり実在するWebサイトを調査する『かがみの特殊少年更生施設』を2024年に発表。この数年で次々に新作のARGを発表し続けている。
現実を侵食しながら
物語を産み感情を揺さぶる
「現実」と「仮想」の中間にある領域。演劇用語では、その境界領域を「第四の壁」と呼ぶ。第四境界は、その壁を侵蝕し、現実と仮想を接続しながら物語を展開していく。
「第四境界のARGは、わかりやすく言えば、プラットフォームを使わないアドベンチャーゲームです。言い換えれば、現実世界をプラットフォームにして物語を表現しているイメージです。その特徴は、現実が侵蝕される手触りを感じられること。そこで表現したいのは、うまく言語化できない未知の感情を呼び起こすことです」
藤澤さんは、「大勢のオノマトペ感情を大きく揺さぶる物語」が「面白い物語」であるという。ワクワク、ハラハラ、ゾクゾク…その揺れ幅は、大きければ大きいほど面白い。この不気味な物語が、もしかしたら現実かもしれない。そう思った瞬間、ゾクゾクした感情が背筋を走る。その感情のコントラストこそが面白い体験であり、新体験のエンタメとなるというわけだ。
「ときどき、ホラー特集で取材の依頼も受けるのですが、僕らは決してホラーをつくろうとしているわけではありません。面白いものをつくろうとした結果、誰もやったことのない表現のフィールドにたどり着き、そこで生まれたのが第四境界のARG作品です。僕たちはひとつ何かつくったらもう次に行こうと決めています。同じ手法は使わない。まだ誰もやってないものを発明してこそ自分たちの存在価値があると思っているからです」
「第四境界」のARGに仕掛けられた謎は、決して簡単なものではない。藤澤さんは、1人で解くことも想定していないという。それは、誰かと協力しながらゲームを楽しんでもらいたいという考えもあるからだ。ゾクゾクにワクワクし、それを仲間と共有する。この新しいエンターテインメントを、ぜひ体験してほしい。
藤澤 仁
ふじさわ じん スクウェア・エニックス在籍時に「ドラゴンクエスト」シリーズのディレクターを務め、退社後、シナリオ制作会社ストーリーノートを設立。ARG作品『Project:;COLD』の総監督を務めたことを機に、2024年「第四境界」を立ち上げ「誰も見たことがない物語表現」の追求を続けている。
「人の財布」
6800円
架空の持ち主が存在する「人の財布」を中身ごと購入し、持ち主に迫る謎解きゲーム。誰かが使っていたリアルな財布を実際に開けるところから、ミステリー体験が始まる。何度も再販されているが、サイトでは品切れ状態が続いている。このゲームは、その後シリーズ化され、ほかにも「人のカレンダー」「人の交換日記」「人の給与明細」がある。
「かがみの特殊少年更生施設」
※無料コンテンツ
とある少年院のWebサイトを調査するミステリーゲーム。プレイヤーは実在するWEBサイトにアクセスし、自分の手で施設の闇を暴き、真実を考察していく。本編のほか、新章「少年の声、彼女のうた」も公開されている。
https://kagamino-jrep.net
「幽拐エレベーター」
※無料コンテンツ
エレベーターに閉じ込められてしまった1人の少女を救い出すため、そこで起きている異変を解決していくホラーゲーム。無料でプレイでき、比較的短時間でクリアできるので、初めて第四境界の作品を体験する人にもおすすめ。
「事故物件鑑定士試験」(会場:渋谷)
5800円
事故物件に関するさまざまなトラブルを解決するプロフェッショナル・事故物件鑑定士の架空試験を、都内の試験会場で実際に受験するという試験型ホラーゲーム。合格すると、実際に事故物件鑑定士として活動する体験ができる。8月16日(土)〜24日(月)まで開催。
第四境界は、現実と仮想の間の曖昧な領域に物語を紡ぎ出すクリエイターのプロジェクトチーム。ARG(代替現実ゲーム)と呼ばれる“物語が日常を侵蝕する体験”を、新たなエンターテイメントとして世に送り出している。