顔なき音楽家たち《音楽日々帖》


 7月のフジロックで、ついにシーアが初来日を果たします! プライベートを守るため、頑なに顔を隠し続ける彼女。メディアに登場するときはウィッグや紙袋を被り、カメラに背を向けて歌う。顔出しした!?と思ったら変顔だったりと、そのユニークな変装パフォーマンスは、かえって注目の的となっています。

 そう。謎が多いほど、人はより知りたくなるもの。思い出すのはナルバリッチがデビューしたときのことです。メンバーの顔が明かされておらず、アルバム名も『Guess Who?』(=誰だと思う?)。まさに正体不明のバンドで、だからこそ、洒脱なサウンドがダイレクトに入ってきました。アシッドジャズだし、マスコットの“ナルバリ君”はどこかメディシンマン的だし、「絶対ジャミロクワイ好きだよね!」などと想像も膨らみます。音楽をありのまま届けるために、自身が“中の人”になるというのは巧みな方法ですね。

 自分のつくった音楽を多くの人に届けたいというのが、すべてのミュージシャンのモチベーションだと思っていました。しかし韓国インディーズには、「検索されにくそうだから」という理由で“公衆道徳”と名乗るアーティストがいるのです。しかも2作目からは“空中泥棒”と改名。情報の海に身を潜める彼は、ひょっとしたら、検索しただけで全てを理解した気になってしまう現代人に、「まずは音楽を聴けよ」と言っているのかもしれません。

 では、私達メディアの人間は、その音楽を届けるために、どんな紹介ができるのか…実に奥深い問いです。

SIA『This Is Acting』

 ボブのウィッグがトレードマークのシンガー。これは、ソングライターとして楽曲提供したもののボツになった曲を自ら歌った作品集。リアーナが不採用にした「Cheap Thrills」など

metro197__S1_1213切り抜き.jpgSony Music 2016

NULBARICH『Blank Envelope』

 シンガーソングライターのJQ (Vo.)と流動的に入れ替わるメンバーで構成されるバンド。ブラックミュージックを軸に何げない日常をオシャレに格上げするポップな3作目

metro197__S1_1208切り抜き.jpgVictor Entertainment 2019

空中泥棒『Crumbling 』

 正体不明の韓国の宅録アーティストが“公衆道徳”から名義を改めた2作目。巧みなアコギのピッキングとコラージュサウンドの洪水が押し寄せる音宇宙は、どこかコーネリアスを思わせる


metro197__S1_1211切り抜き.jpgBotanical House 2018






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