selection&text: 稲葉智美

《音楽日々帖》自分は 何者なのか


 自分が何者なのかを問われたとき、ピタリと言い表す肩書きがなければ辛いけれど、無理して肩書きにフィットさせようとするのも、合わない靴を履くみたいで苦しいですよね。それは音楽においても、普遍的な主題のようです。

 ミツキのニューアルバムは、取り繕った明るさをディスコポップで表現した「Nobody」など、「本来の自分とは別の人格になることの孤独」がテーマです。“カウボーイになれ”というアルバムタイトルを見て、アメリカではマッチョで強い男性が賞賛されるあまり、固定観念に苦しむ男の子が少なくないという話を思い出しました。

 セカンドアルバムで、クリスティーヌ・アンド・ザ・クイーンズというステージネームに取り消し線を引き、より中性的な“クリス”という人格で登場したエロイーズ・ルティシエ。セクシーさや女性らしさを再定義させようとする彼女を見ていると、ジェンダーだけでなく、さまざまな場面で「〜らしく」の呪縛をかけていないだろうかと、私たち自身も考えさせられます。

 自己と他者の関係性を表現した『22, A Million』から2年。ジャスティン・バーノンの理念は制作過程にも及んでいます。『Big Red Machine』を一言で表現するなら、協働が生んだ美しい音楽。ジャスティンの書く自己探求的な歌詞がどこかポジティブな気がするのは、大勢の仲間の手が加わった音楽だからなのかも。アルバムを締めくくる「Melt」で繰り返されるように、人との関わりの中で「私は私だ!」と前を向けたなら、きっといまある肩書きも誇らしく思えるはずです。

 

MITSKI『Be The Cowboy』

 日本生まれNY在住のシンガーによる5枚目。シンボルになること、別の人格になることをテーマにした本作は、舞台女優のような装いで視線を向けるジャケットが印象的

metro192_S1_2641.jpgHostess 2018

CHRISTINE AND THE QUEENS『Chris』

 マドンナやロードらも絶賛するフランス人ポップスター。マイケル・ジャクソンに影響を受けたパフォーマンスは必見。80年代シンセポップ・サウンドが強調された2ndアルバム

metro192_S1_2642.jpgHostess 2018

BIG RED MACHINE『Big Red Machine』

 ボン・イヴェールのジャスティン・バーノンとザ・ナショナルのアーロン・デスナーによるコラボ・プロジェクト。彼らが設立したアーティスト集団“People”の人々が大きく貢献

metro192_S1_2645.jpgHostess 2018






この記事をシェアする

LATEST POSTS