かつては独りになれる場所であり、声を殺しながら長電話する場所であり、見られてはいけないものが隠してある特別な場所だったベッドルーム。大人になるにつれ、いつしか眠るためだけの部屋になっていました。
現在17歳のビリー・アイリッシュが兄とベッドルームでつくった『WhenWe All Fall Asleep, Where DoWe Go?』は、苦悩や葛藤が渦巻いていた“あの頃のベッドルーム”に引き戻される1枚でした。抑制の効いた歌とサウンドでどんどん深い闇に落ちてゆく。驚くべきは、外部のプロデューサーを一切加えない兄妹による作品だということです。ティーン特有の内面的な危うさを抱えながらも、その状況を俯瞰して表現に落とし込める成熟した視点。SNS世代のカリスマ、おそるべしです。
ほかにもベッドルームサウンドをいくつかご紹介しましょう。ジア・マーガレットの『There'sAlways Glimmer』は、眠りにつくとき、ふと浮かぶ記憶や心のざわめきを閉じ込めたような作品。言葉少なに口ずさむメロディは子守唄のようで、夢うつつな空気感が漂っています。
そして、フィリピンのベッドルームから届いたメロウ・フェロウの『Jazzie Robinson Deluxe』。マック・デマルコあたりを通過したであろうローファイなギターがキラキラしていて、トロピカルなサイケデリアにまどろみます。ベッドルーム・ポップの魅力は、部屋の匂いや湿度まで想像させる私的な距離感。まるで誰かのベッドルームとつながっている秘密の扉みたいな、ロマンチックな音楽なのです。
BILLIE EILISH『When We All Fall Asleep,Where Do We Go?』
新世代のポップアイコンとして旋風を巻き起こしている、LA出身17歳のシンガーソングライターによるデビューアルバム。全世界11カ国のアルバムチャートで1位を獲得
GIA MARGARET『There's Always Glimmer』
シカゴを拠点に活動するシンガーソングライターのデビューアルバム。フォークやシューゲイズ、アンビエントなどの要素が盛り込まれたその音楽を“Sleep rock”と自称する
MELLOW FELLOW『Jazzie Robinson Deluxe』
いま熱気高まるアジアン・インディーの注目株、フィリピン人シンガーソングライターのポロ・レイズによるソロプロジェクト。ベッドルーム発SoundCloud経由のドリームポップ