illustration: Yu Fukagawa text:千代里

見せかけをやめるとき《お多福美人講座》


 お茶のお稽古でお師匠さんが、「器用な妓はすぐできるようになるけど、忘れるのも早い。物覚えが悪い妓は、時間はかかるけど身につく」とおっしゃったことがありました。器用じゃないのに努力をしない私は、結局いろんなことができずじまい。でも、「ぱっと見、それらしくみえたらOK」とばかり、手間や努力なしで結果を得ようとしてきました。ところが昨年、AIについて研究していらっしゃる脳科学者の先生の講演を聞いて、「これではいかん!」と焦るようになりました。

 AIが発達すれば、自分の苦手なこと、上手になるのに労力が必要なことなどは、AIが代わりにやってくれるようになるかもしれません。AIでは難しいと言われがちなコミュニケーションの分野でも、人間には感情がある分、言ってはいけないことを言ったり、気分によって雑な対応をしたりすることがありますが、AIにはそういうことがありません。実際、アメリカの心療内科ではすでに、AIカウンセラーのほうが人間より人気があるそうです。

 「上手に、早く、正確に、結果を出す」ことをAIが担当するとしたら、人間に残された仕事は「自分の内側を耕す」ことだと思うのです。失敗したり、うまくいかないことにぶち当たったとき、練習したり、やり方を変えてみたり、ときによっては価値観自体を見直してみたり…。

 また、何かを「してもらう」ことが簡単になる分、能動的に行動を起こす力を求められるようになるはずです。理想の見た目で、思い通りの接し方をしてくれるAIがあれば、素敵な恋人に愛される錯覚は味わえますが、人を愛する力は誰かが与えてくれるものではありません。人を愛せる自分になるのは、人任せにはできません。

 「うまくやること」より、お稽古を通して内面を育てることが大事だよ。それがお師匠さんの言いたかったことではないかと、ようやく気づいたこの頃です。

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