illustration: Yu Fukagawa text: 千代里

大人のお稽古《お多福美人講座》


 この頃、バク転や空中ブランコなどが、お稽古として大人に人気だそうです。ほかにも、語学や楽器など、「大人になってからでは上達しない」と、一般的には言われるものに挑戦する人も多いとか。

 花柳界でも、高齢になってから初めての芸事に取り組まれるお姉さんがいらっしゃいました。芸事は、早くに始めたほうが楽に身につくといわれます。でも、笛が上手な立ち方(踊り)のお姉さん(当時75歳)が、笛を始めたのが60歳というのを聞いて以来、「いくつからでも、やる気があれば身につく!」と思うようになりました。

 また、花柳界には、小さい頃から始めたお稽古を、80歳になっても続けているというお姉さんもたくさんいらっしゃいました。名人と呼ばれているお姉さんでも、お稽古では容赦なくダメ出しをされることがあります。若い妓の前で叱られたり、怒鳴られることもあります。そんなとき、人目を気にせず、上達することだけに集中するお姉さんの姿を見て、すごいなぁと思ったものでした。

 大人になってお稽古事をするよさは、なにかが身につくこともさることながら、「今さら」とか、「人前で恥をかきたくない」という気持ちが薄れていくことだと思います。「知らないことがあってもいいし、できないことがあってもいい」「できないことを、できるようになろうと努力することは恥ずかしいことではない」と思えると、生きているのが楽しくなります。また、日頃、指導者の立場にある人は、ものを教わったり、叱られたりする機会をもつことで、相手が「どこがわからないのか」「どう叱ると響いて、どう怒ると後を引くのか」ということへの気づきを得ることが多いと思います。

 会社や家庭とは違う世界の出会いがあるのもお稽古の魅力。続かなかったら次へ、くらいの気持ちで始めてみてはいかがでしょうか。

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