2016年に公開され、多くの賞を受賞した『湯を沸かすほどの熱い愛』。その作品でメガホンをとった、中野量太監督の新作『長いお別れ』が、今月末に公開される。テーマに選んだのは“認知症”。中島京子の同名小説『長いお別れ』を原作に、記憶を失っていく父と、その家族の変容を描いた作品だ。なぜ、主題に認知症を選んだのか?中野監督はこう語る。
「認知症は、高齢化していく社会において、これからさまざまな人が対峙するかもしれない病気です。そのときに、認知症のことを家族がどれだけ前向きに捉えて、その人に接することができるのか。それを一度考えてほしくて、今撮るべきテーマだと思ったんです」
祖母も認知症を患っていた、と語る中野監督。自身の記憶や経験を思い返しながら、リサーチも重ね、原作にはないシーンも映画には加えた。
「劇中、お父さんが電車の中で、ある台詞を奥さんに告げるシーン。これは10年ほど前に見た認知症のドキュメンタリーから着想を得ています。見せ場である“遊園地”のシーンも、専門医に取材して聞いた実話がもとになっているんです」
認知症を扱った作品は、ともすれば暗くなりがち。けれど、この作品に重苦しい雰囲気はない。
「今回目指したのは、“新しい”認知症の映画です。これまでこの病気は、家族であったことさえ分からなくなってしまう…というネガティブな描かれ方をされることが一般的でした。ですが、昨今の認知症に対する認識は、少しずつ変化してきています。本人は、いろいろなことを忘れてしまうけれど、大切な人であるという存在感は感じることができる。これが、現在の認知症に対する捉え方です。そのことを理解しているのと、いないのとでは、接し方も、きっと違ってくるのではないでしょうか」
記憶は失われても、心はちゃんと生きている。中野監督は優しい表情で、そう語ってくれた。
なかの りょうた
1973年、京都府生まれ。
2012年に、自主長編映画『チチを撮りに』で、国内外14の賞を受賞。その後、2016年に『湯を沸かすほどの熱い愛』で商業長編映画デビュー。日本アカデミー賞主要6部門をはじめ、合計14の映画賞で、計34部門の受賞を果たした。

『長いお別れ』
5月31日(金)全国ローショー
監督:中野量太
脚本:中野量太、大野敏哉
原作:中島京子
『長いお別れ』(文春文庫刊)
出演:蒼井優/竹内結子:、松原智恵子/山﨑努:ほか
配給・製作:アスミック・エース ©2019『長いお別れ』製作委員会 ©中島京子/文藝春秋