photo: Madoka Kawagoe styling: Tsuyoshi Takahashi(Decoration) hair&make-up: Kyoko Yamada text: Mayuko Yago

伊藤健太郎《プロフェッショナルの肖像「PRO-FILE」》


幻想や苦悩に揺れ動く、絶望の青春

 押見修造の伝説的コミック『惡の華』が実写映画化される。鬱屈した思春期の衝動にもがく主人公・春日役に挑むのは、今をときめく俳優・伊藤健太郎。ヒロインとの„奴隷契約“を機に変化していく春日を、伊藤はどう見ているのか。

 「僕も中高生の頃は地元の先輩に影響を受けた部分が多いので、思春期に出会う相手によって生き方が変わるのは、よくわかります。自分も男なので、春日が女子の匂いに惑わされてしまうところなんかも共感はできますよ。当時好きだった子のシャンプーの香りは、今も覚えていますから!」

 しかし撮影当初は、自分とかけ離れた春日の役づくりに苦しみ、吐いてしまうほどだったという。中学生になりきるため、酒を断ち、現場で全身の毛も剃った。

 「禁酒も剃毛も面倒でイライラが募るんです。でも、春日と同様に自分も何かしらのストレスを味わうことで、リアリティが出せるかな、と」

 これまでは撮影現場を離れると、フラットな自分に戻っていたそうだが、今回は初めて「役が憑依しているかも」と徐々に感じたのだとか。

 「黒板に長文を書きなぐるシーンに備え、ホテルの部屋で『俺はクソムシ、俺は変態…』と書いて覚えていたんです。のめり込み、気づけば大量のメモを部屋中にまき散らしたまま、撮影に行ってしまって…。春日が乗り移っていた気がします。撮影中も女の子に罵られたり、蹴られたりするのが楽しくなり、『もっとやってくれ!』と、春日の心境にズブズブとシンクロしていました。僕は„M気質“ではないし、今作に登場する女の子は誰も好きなタイプじゃないはずなのに(笑)」

 女性には、思春期男子の暗黒面は理解に苦しむ部分もあるかもしれない。でも「男の子はみんな変態なのね、と温かい気持ちで見てもらえたら」と伊藤は笑った。彼が開拓した新境地を、かつて思春期に苛まれたすべての人たちに見てほしい。


 

いとう けんたろう

 1997年6月30日、東京都生まれ。モデルを経て、2014年にドラマ『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』で俳優デビュー。2019年には第42回日本アカデミー賞新人俳優賞・話題賞 俳優部門を受賞。ラジオ『伊藤健太郎のオールナイトニッポン0(ZERO)』ではパーソナリティを務めている


 

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『惡の華』

2019年9月27日(金)より全国公開
原作:押見修造『惡の華』(講談社)
監督:井口昇 脚本:岡田麿里
主題歌: リーガルリリー『ハナヒカリ』(OfficeAugusta/Bandwagon)
出演:伊藤健太郎/玉城ティナ/秋田汐梨/飯豊まりえほか


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