photo: Kaori Nishida text: Shiori Sekine (EATer)

濱口竜介《プロフェッショナルの肖像「PRO-FILE」》 


短編だったら“偶然”を描ける気がした

 濱口竜介監督の新作『偶然と想像』が、12月に公開される。本作は、40分ほどの短編3作によるオムニバス映画。3つの物語はいずれも、”偶然”を機に動き出す登場人物たちの運命を描いている。

 濱口作品といえば、2015年公開の『ハッピーアワー』が5時間17分、8月に公開されカンヌで賞を獲得した『ドライブ・マイ・カー』が2時間59分と、長尺の作品がとくに印象深い。今回はなぜオムニバスというスタイルを選んだのだろう?

 「もともと“偶然”というテーマに興味があったのですが、物語にする難しさも感じていました。描いた途端に、ご都合主義的な作為を感じてしまって。でも短編だったら、自然に”偶然”を描けるような気がしたんです。短編映画を一本だけつくっても、興行的には難しいので、オムニバス形式にしてみようと思いつきました」

 短編にこだわる理由を、濱口監督はこう続ける。

 「僕は、撮影前にリハーサル期間をきちんと取りたいのですが、関わる人が多い長編映画だと、なかなか難しい。それが今回は、1本あたり10日前後のリハーサル期間が取れました。リハーサルでは、役者にひたすら台本を読んでもらいます。そうすると台詞が体に馴染んでいく。考えなくても言葉が出るようになるんです」

 その結果生まれるのが、濱口作品の特徴でもあるリアルで自然な演技。作為を感じさせない偶然を描くために、本作においてリハーサルはいつも以上に重要だったのかもしれない。また、短編作品は小規模な制作体制だからこそ、現場で生まれたアイデアも臨機応変に生かすことができ、新たな表現にもチャレンジしやすかったという。

 「このシリーズは、全7編の予定です。今後、制作する作品でも、いまの自分が思いもよらないような、まったく新しいことに挑戦したいです」

 次は、どんな“偶然”に出合えるのだろう。今後の濱口監督の短編映画にぜひ注目したい。

 

はまぐち りゅうすけ

1978年12月16日、神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院映像研究科の修了制作『PASSION』(2008)が国内外の映画祭に選出され、注目を集める。現在公開中の『ドライブ・マイ・カー』にて、日本映画史上初となる第74回カンヌ国際映画祭脚本賞を受賞。『偶然と想像』は、2021年3月に行われた第71回ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した。


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© 2021 NEOPA/Fictive

『偶然と想像』

12月17日(金)より、Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー
監督・脚本:濱口竜介
出演:古川琴音、中島歩、玄理、渋川清彦、森郁月、甲斐翔真、占部房子、河井青葉
配給:Incline


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