食材のおいしさ引き出す”補強”
あの一皿の驚きが忘れられない―紀尾井町の人気フランス料理店「Le FAVORI(ル・ファヴォリ)」のシェフに今月、就任した古澤英夫。修行中の25歳のとき、現代フレンチの巨匠アラン・デュカスの味を求め、直系のシェフが腕をふるうモナコ近郊のレストランを訪れて、最初の冷菜に料理の概念を覆された。
「シンプルな野菜の盛り合わせに、びっくりするぐらいのおいしさが詰まっていました。味付けはオリーブオイルぐらいでしたが、ズッキーニトランペットという地元の野菜をゆでるだけで、うま味や香りを抽出していて感銘を受けました」
この出合いが、料理人としてのスタイルを決めた。
東京に生まれ、格闘技に明け暮れた学生時代を経て、手先の器用さを生かして都内のレストランに入った。フランス料理を学んだが、「勉強して知識も技術も付いてくると、日本の厨房(ちゅうぼう)内の人間関係などが少し窮屈になりました」
海外で実力を試したいと、24歳で単身フランスへ。正統な料理を身に付けようと、ニースやアルザス、ブルゴーニュと地方の名店をめぐり、たどり着いたのがデュカスの料理だった。
「もともと、モナコにある本人のお店『ルイ・キャーンズ』に憧れ、働きたいと思っていました。(直系の)シェフの紹介でランチを食べに行ったら、テーブルにあいさつに来てくれて、とても感動しました」
お店に通って直接教えを請うなど研究を重ね、帰国後の2008年に本人が経営する「ブノワ アラン・デュカス 東京」に誘われて参加。10年には副料理長として調理場を任され、巨匠の右腕として約10年働いた。
「印象に残っている言葉は『ナチュール』(仏語で自然の意味)。料理はすべて自然のものなので、食材の良さを引き出すのが根本といわれ、納得しました」
ル・ファヴォリの料理にも、その哲学は反映されている。例えば、和牛のサーロインは、食材との調和を重視して牛の骨や肉などを煮詰めたソースを添える。特別なものは入れないが、ソースに入れる肉は焼いて香りを足すことで、うま味を引き立たせている。
「おいしい食材は手を加えなくても、一つ何かを足すだけで10の料理になることもある。”食材の補強”です。シンプルがゆえに難しいけど、驚きや感動も大きい。そんな料理を目指しています」
(敬称略)
Le FAVORI(千代田区紀尾井町1-3 東京ガーデンテラス3階)
営業時間:ランチ11:30~15:00 ディナー17:30~22:30
定休日:第1、第3月曜 ※5月6日(月・休)は営業し、翌7日(火)休み
価格:ランチ4500円~、ディナー8000円~ ※いずれも税・サービス料別
TEL 03-6272-3764
ふるさわ ひでお
1979年、東京生まれ。都内でフランス料理の基礎を学び、24歳で渡仏。ミシュラン3つ星など輝かしい実績のあるレストラン6店で修行し、帰国後に「ブノア アラン・デュカス 東京」の副料理長を務める。「ベージュ アラン・デュカス 東京」も含め、約10年にわたってデュカスの右腕として働き、今年4月に「Le FAVORI」のシェフに就任。
明日は、②新天地「Le FAVORI」を選んだ理由