15個の石を敷き詰めたシンプルな庭園が有名な京都市右京区の世界遺産・龍安寺。その龍安寺が明治時代に失った9面の襖絵をこのほど、現在の持ち主である収集家の人から競売会社を通して買い戻しました。絵が龍安寺に帰還するのは実に123年ぶりのことだそうです。2019年1月10日から一般公開され、通常の拝観料で見学することができます。
龍安寺によると、今回の襖絵は慶長11(1606)年に織田信長の弟、信包が建立した本堂の接客用の「上間一の間」と呼ばれる部屋にはめ込まれていたもので、芝垣を瀬にした雄大な芭蕉が金地にダイナミックに描かれた作品です。
龍安寺の本堂にはもともと襖絵が約90面あったとされています。1895(明治28)年の廃仏棄釈(仏教を廃毀し僧侶を排斥する政府の宗教政策)によって、他の寺を経由して九州の炭鉱王と呼ばれる伊藤傳右衛門氏に売却されました。
その後の昭和8年に開かれた「大阪築城350年記念特別展覧」にそのうちの71面の襖絵が出展された記録が残っていますが、その後どこへいってしまったかはわからず、事実上散逸してしまいました。
最近になって所有していた静岡市の男性収集家が、ニューヨークの競売会社のクリスティーズに売却を持ちかけ、クリスティーズからの連絡を受けて競売ではなく相対取引が成立したそうです。昭和8年当時の特別展覧の図録及び、当時の住職や檀家の記憶などから本堂にあった襖絵と断定したといいます。
龍安寺の岩田晃治学芸員は「外国で岩絵の具ではない材料を使って修復された痕跡があり文化財としてはあまりよくない状態ですが、戻ってきてよかったです」と話していました。龍安寺は2010年にも本堂にあったとされる中国の仙人が描かれた「群仙図」と琴や囲碁で遊ぶ人を描いた「琴棋書画図」の計6面をクリスティーズの競売で購入しており、今回が2回目の帰還となるそうです。