6月16日は「和菓子の日」であるということをご存じですか。古くからのいわれのある記念日なのですが、残念なことに知らない人が多いのも事実です。
848(嘉祥元)年6月16日、仁明天皇が16個のお菓子や餅などをお供えして、疫病がなくなり、健康で幸せに暮らせるように祈ったという由来があり、この日に和菓子を食べる習慣が、江戸時代まで続いていたそうです。この習慣の復活を願って、1979(昭和54)年に全国和菓子協会が定めたのが「和菓子の日」です。
そんな中、次代を担う全国12の老舗和菓子店の若主人からなるユニット「ワカタク」(若き匠たちの挑戦)が、20日(火)までの期間限定で、東京都世田谷区の玉川高島屋で「和菓子の日」にちなんだイベントを行っています。今年のテーマは「七夕」。

初日から大勢のお客さまでにぎわう「「ワカタク」(若き匠たちの挑戦)」のイベント会場=東京都世田谷区玉川の「玉川高島屋」 (写真・田中幸美)
伝統の老舗ならではの代表銘菓や定番の和菓子などに加え、「七夕」に思いをはせて創作した夏の新作和菓子が登場しています。美しい日本の四季と歴史の中で育まれてきた「和菓子」の素晴しさを伝え、その時代に合った新しい和菓子を生み出そうとするワカタクの活動に注目です。
まず、それぞれ趣向を凝らした七夕の和菓子を紹介しましょう。

「七夕」をテーマにしたワカタクメンバーのさまざまな和菓子
創業約200年の「乃し梅本舗 佐藤屋」(山形市)八代目、佐藤慎太郎さんの創り出す七夕の和菓子は「ひととせに」です。柿本人麻呂の「ひととせ(1年)に 七日の夜のみ逢ふ人の 恋も過ぎねば 夜は更けゆくも」という万葉集の和歌から菓銘をつけたそうです。
下の紫の羊羹は70種類ものハーブが入ったイタリアのリキュール「ストレガ」を入れて甘く魅惑的な香りを演出しました。上の部分は、練り切りで作った5色の帯で織り姫の糸巻きを表現、そこにユズ入りの寒天を流し込みました。

「乃し梅本舗 佐藤屋」の「ひととせに」は寒天に込められた美しい5本の糸がポイントです
佐藤さんは「あまり色恋の話は得意ではないのですが」と前置きして、「七夕というと世間ではなにかやたらとしっとりしてるけど、間違っていますね。七夕はすごい熱い恋人の一夜のはずなんです」と話します。その情熱は、糸巻きに巻かれた状態ではない、まるで絡まって踊るような感じの5本の糸で表現したそうです。

佐藤さんは17日~19日、日本酒と和菓子のマリアージュを紹介する「慎太郎's BAR」を開催します
次に地元東京からは全国の羊羹屋が一目置く老舗「青柳正家」(墨田区)三代目の須永友和さんが作った「清甘露 笹」が登場しています。表面の砂糖がザラッとした後に、笹のみずみずしい香りが口いっぱいに広がるさわやかな寒天菓子です。
殺菌効果のある笹は、水大福など和菓子を包むときに使われますが、本来食用なのに案外笹を使った和菓子はあまりないそうです。そこで須永さんは「使うだけでなく食べることも考えてみようと思って作りました」。
笹は食べると繊維が引っかかるため、特別に粉末状にしてもらったそう。「食べてもらって、お菓子そのものに対してもっと奧深く知ってもらいたいという気持ちで作りました」と話します。

「青柳正家」の「清甘露 笹」は笹の風味が口に広がるさわやかな寒天菓子です
こちらは、「巌邑堂」(浜松市)五代目、内田弘守さんが創作した「雨の川」(あめのかわ)です。内田さんは国内だけでなく、シンガポールやタイなどの東南アジアをはじめ、パリやロンドンなどでも活躍する国際派の和菓子職人です。

2016年3月にパリで行われた「羊羹コレクション」で実演を披露する内田弘守さん(左)と須永友和さん(左から2人目)(写真・田中幸美)
粒あんを包んだ焼き菓子に羊羹を流し込み、上が小豆の羊羹にはショウガの寒天を、抹茶の羊羹にはユズの寒天を夜空のようにちりばめました。
実は内田さんは当初、棹菓子を出す予定でしたが、チラシの撮影の前日になって急遽(きゅうきょ)、変更を思いついたそうです。時間がない中で、「あまりみんながしない焼き菓子と生菓子の中間のようなものはできないかな」と試行錯誤を繰り返し、たどり着いたのがこの一見洋菓子のような和菓子だそう。
トッピングした金箔は織り姫と彦星を表現しました。「雨が降ると会えない寂しい感情と来年を期待する感情がいろいろ入り交じるのをお菓子で表現すると、ああいう訳わからない味になってしまったんです」と笑いますが、洋風の焼き菓子と和の羊羹のありそうでなかったコラボは、人々を引きつけ、初日から売り切れ状態でした。

「巌邑堂」の「雨の川」は焼き菓子と生菓子のマリアージュを実現しました
今回出店している12老舗のうち2老舗はせんべい専門店です。そのうちの一軒が「田中屋せんべい総本家」(岐阜県大垣市)です。六代目の田中裕介さんは、低迷する煎餅業界において、ミントの葉っぱを粉砕し生地に練り込んだ「ミント煎餅」や、キャラメル煎餅「まつほ」をはじめ、今年のバレンタインには「まつほ ショコラ」などさまざまな新作を発表して圧倒的な開発力で注目されています。

「田中屋せんべい総本家」の田中裕介さんはアイデアマン
そんな田中さんが今回、七夕の和菓子に選んだのは、昭和30、40年代から作られている伝統の「短冊せんべい」です。
「常に新作を作り続けるのも大事ですが、そうじゃないものを食べた若い子たちが『これ、うまい。あれ?』」と再発見してもらうのも一つのアプローチ」と話します。
短冊せんべいは非常に手間がかかるのでたくさんは作れないそうです。「入り口はミント(煎餅)だったりキャラメル(煎餅まつほ)だったりしますが、結局ここ(伝統の煎餅)にたどり着かないといかんなあと思っています」と話します。和菓子作りにおいては伝統と新作は表裏一体となっているのですね。

「田中屋せんべい総本家」の「短冊せんべい」は伝統の一品です
京都、金沢と並ぶ三大菓子処の町、松江からは創業143年の「彩雲堂」が出店しています。六代目の山口周平さんは、ワカタクメンバーに触発され、職人になることを決意し、一昨年2月に職人デビューを果たしました。
その彩雲堂からは夏の夜空に瞬く星を表現した「満天」が届きました。昨年はインスタグラムなどで取り上げられ、SNS映えする和菓子としても話題となりました。

「彩雲堂」の美し過ぎる棹菓子「満天」
10年前に作り始めたころは、青い色の和菓子などなく珍しがられたそうです。小豆の羊羹の上に、青く染めた錦玉(寒天)をあしらったもので、星に見立てた金粉をスプレー状に吹き付けています。一見すると二層に見えますが、実はよく見ると、一番上に透明の寒天が流し入れてあるため三層に見えるそうです。なんともロマンチックな羊羹です。

彩雲堂の「和菓子職人が作るあんパン」は人気で催事ではあっという間に売り切れになってしまいます
こうした七夕にちなんだ和菓子のほか、お客さまのリクエストやイメージを聞いてその場で生菓子を作ったり、イートインコーナーでは自家製シロップのかき氷や特製あんみつ、新感覚和スイーツなどが味わえます。さらに17日(土)~19日(月)午後6時からは佐藤慎太郎さんが和菓子と日本酒のマリアージュを提案する「慎太郎s Bar」が開催されます。(写真はすべて田中幸美)
◆「WAGASHI~和菓子老舗 若き匠たちの挑戦~」は、東京都世田谷区玉川3-17-1の「玉川高島屋」地階催場で、20日(火)まで。午前10時~午後8時(20日は午後6時まで)。問い合わせは☎03・3709・3111。