先日、お仕事で衣装スタイリングをしておりました。シンプルな膝丈のノースリワンピ。そのままでも素敵ですが、スタイリストの白幡啓さんが「ここにパンツを足したら、ほら、一気に今年っぽくなるでしょ」と。確かに、ストレートパンツを合わせるだけで甘さが抑えられて、一気に今っぽくなりました。
昨年あたりから、スカートやワンピの下にパンツを合わせるスタイリングをランウェイでもよく見ます。例えるなら、べトナムのアオザイのような感じです。アオザイは体にぴったりとしたワンピースの下にクワンと呼ばれるパンツをはくのですが、まさにそんなスタイル。
最近、女性のファッションは女子度をマイナスするほうがおしゃれ見えします。来年から切り替わるJALの制服が発表になりましたが、CAさんにパンツルックが採用されたのが話題になりました。タイトスカートをエロ目線で見るおじさん除けにもなり(失敬)、パンツユニフォームは世界的にスタンダードになっております。
対して、上海やモスクワに行くとよく見る光景ですが、成金おじさんの横には必ずと言っていいほどミニスカート&ピンヒールの若い女の子がいます。わかりやすい構図です。つまり、急激にお金持ちになった国ではミニスカは性的アピールの代名詞であり、玉の輿を狙う武器にもなるのです。日本でも、2000年代ヒルズ族の横にミニスカ女子がいたことを思い出しましたが、根本は一緒ですね。
パンツしか選択肢がない男性と比べて、女性のファッションのボトムスは時代のジェンダー意識の表れです。それは国の景気や勢いにも連動しているようです。日本にミニスカートが入ってきた高度成長期の1960年代。ツイッギーがはいていたミニスカは女性解放の象徴でした。それまでは、ひざ下まで覆うスカートは貞淑さの証だったのです。女性自身がスカート丈を選ぶことが、エポックメイクなことでした。
さて、話は戻って、今年は色々な意味でジェンダー意識の変化が進んでいます。今までもマニッシュなスタイルは何度かブームがありましたが、最近の傾向は男の格好を真似るのではなく、女子っぽさからの解放。性別を感じさせないジェンダーレス、性別を混合するジェンダーミックス、そして今はジェンダーを自在に加減するジェンダーフリーな方向です。自分ならではの男性性と女性性のバランスは個人の選択ということ。実際に、ワンピ下にパンツをはくとスースーしないんですね。当たり前ですが。ひらひらする裾を気にすることもなくなります。でもワンピだから男っぽくないのがちょうどいい。
今年の秋、ユナイテッドアローズからデビューする《ロエフ》というブランドは“ベーシックマスキュリン”を掲げています。ジャケットやシャツ、コートはメンズ仕様のデザイン。女性服のデザインより、ディテールにこだわったテーラーメイドのアイテムは、メンズの“長くいいものを着こなす”良さをレディースの服に取り入れているところが新鮮です。男性に媚びを売らずに自分らしく自立している女性にとって、女っぽさをちょっと抑えた服は仕事にもちょうどいい。もちろんかわいいミニも大好きだけど、いろんな選択肢が増えることっていいなって思うのでした。
THIS MONTH'S CODE
#白幡啓さん
『オトナミューズ』などで活躍する人気スタイリスト。自身のブランド《styling/》はモデルや女優さんのファンが多いことでも有名。
#JALの制服
2020年4月から着用される新制服は、デザイナー江角泰俊氏が手がけたもので、「Hybrid Modern Beauty」をテーマにパンツルックを取り入れている。
#ロエフ
この秋冬シーズンにデビュー。「年齢を重ねても大切にしたい日常着」をコンセプトに掲げる。ディレクターの鈴木里香さんは自身もほぼ毎日パンツルック。