ファッションって時々おかしな用語をつくり出します。過去にさかのぼれば「スカンツ」「グラディエイター」「トレンカ」などなど、皆さん覚えていますか?
過去に雑誌等で登場したアイテムの名前ですが、いまとなっては何が何やら。パリやミラノで発表されるコレクションでも、なぜそれ?というアイテムやスタイリングが登場することもしばしばあります。
9月になり、そろそろ2022年秋冬トレンドが気になるところです。ざっくり言うと、前シーズンから引き続き「Y2K」ファッションが人気です。デニムが完全復活し、ミニ+サイハイブーツやダウンベストなど、2000年頃に流行したアイテムがピックアップされています。そんな中で、異彩を放っているトレンドアイテムが「バラクラバ」。
2021年の秋冬コレクションで《ミュウミュウ》が披露すると一気にTikTokでバズり、メンズでも《ルイ・ヴィトン》、《ロエベ》 などのショーに登場したこのアイテム。簡単に言えば、ニットの目出し帽です。防寒具としてスキーのときにかぶる、あれが基本形。《ロエベ》では顔の部分がハートにくり抜かれていたり、ざっくりニットでほっこりするようなデザインだったり(これ、文章を読むだけだと謎でいっぱいだと思うのですが、ぜひネットで検索してみてくださいね)。かなーり上級者アイテムですが、これが韓国では昨年から大ブレイク! 韓国系アイドルやブランドがいち早く取り入れたことで、一気に人気が広がったというわけ。
そしてこの秋、日本でも《スライ》などカジュアルブランドを中心に、このバラクラバがたくさん登場しております。普段のシャツスタイルやヴィンテージ系のワンピにちょい足しするだけで、一気に今年っぽくなるのです。ほっこり系、不思議ちゃん系、クール系とスタイリングもいろいろです。ただし、おじさんたちから「なんだそれ、銀行強盗か?」とか「スキーに行くの?」とか、いじられることは必至ですな。
このコラムを読んでいただいている大人世代の皆さんは「お、それバラクラバ?」と言えば格が上がること間違いなしです。また流行に敏感な若い世代の皆さんはそんな大人の方に、「あれ?バラクラバ知らないんですか?」と言えば、いじり返しだってできます。
ファッションって、常に世代間の分断を生み出すものでもあります。大人世代の方々も若い頃には果敢にいろんなファッションにトライしていたのでありますから、時代は巡り、自分が若者世代を受け入れる側になったのだと思えばよろしいのです。「なんだそれ、みっともない」とか、「笑われるよ」とかは禁句です。
ある70代に差し掛かったナイスジェントルマンな某社長と会食したとき、「昔、ショーケンがはいていたベルボトムに憧れて《ビギ》に買いに行ったんだけど、足が短くて袴みたいになっちゃって(笑)」と昔話をしてくれました。若いときって、そんなおかしなファッションも当たり前に着こなしちゃう、冒険心と自己肯定感に満ち溢れているものなのです。さすがにこのバラクラバを大人が着こなすにはかなりのハードルがありますが、おしゃれに防寒アイテムを取り入れるのはよいかも。
流行アイテムを知ることで始まる世代間コミュニケーション、今年の呪文は「バラクラバ」と覚えましょう。
THIS MONTH'S CODE
#「スカンツ」「グラディエイター」「トレンカ」
「スカンツ」=スカートとワイドパンツを合わせたようなボトム。「グラディエイター」=ローマ時代の闘士の履物のようなデザイン(主にサンダル)。「トレンカ」=つま先とかかとを覆わないレギンスの一種。
#バラクラバ
クリミア戦争の際に、イギリス兵が防寒用に着用したのが始まり。その戦地がバラクラバだったことに由来。
#ショーケンがはいていたベルボトム
当時の大人気ドラマ『傷だらけの天使』に出演していた萩原健一が着用して注目を集めた。衣装協力は、菊池武夫が手掛けた《ビギ》。