illustration: Shogo Sekine

#クワイエット・ラグジュアリーって?《東京#CODE》


 「このところ、ブランドロゴが目立つバッグよりも、シンプルで定番的なバッグが売れているんです」。バイヤーさんからそんな言葉を聞くことが増えました。先日も表参道を歩いていると、ラグジュアリーブランドの店舗には長い行列が。通りを歩く人の6割ほどがインバウンドの海外旅行客、という印象です。彼らの手には数々のブランドの大きなショッピングバッグ。ラグジュアリーブランドは売れに売れています。

 「ここ1年、入荷待ちが続いているのはTHE ROW(ザ・ロウ)ですね」と、セレクトショップのバイヤー談。現在はNYに拠点を置くザ・ロウは、シンプルで上質、飽きのこないデザインでずっと人気のブランドです。価格もかなりのもので、人気の
“マルゴー”バッグは17サイズで80万円超え(7月現在)!いやあ、高い。そのバッグを先日持っていた友人は、「高かったけど、シンプルで持ちやすいし、なにより素材が柔らかくて長く愛せるかな、と思って“清水買い”しちゃった」と。そうなんです。この“シンプル、いい素材、長く愛せる” がキーなのです。

 ブランドを主張しすぎない高品質なラグジュアリーブランドを、「クワイエット・ラグジュアリー」と言います。このキーワード、海外のファッションニュースなどで最近よく見るようになりました。先日、女優のグウィネス・パルトロウがスキー事故の裁判の法廷で着ていた服が話題となりました。ザ・ロウのグリーンのロングコートや、ラルフ・ローレンのベルベットジャケット。法廷らしく、端正かつシンプル、それでいて上質。いずれも、ブランドを主張しないことがポイントです。それを取り上げるインスタなどで、「#quietluxury」とタグ付けされていたのです。

 Quiet=静かな、というだけあって、それはシンプル・イズ・ベスト、なスタイル。ファッションを知り尽くしたおしゃれ上級者だからこその、境地なのかもしれません。

 20世紀に活躍したドイツの建築家、ミース・ファン・デル・ローエが残した「Less is More」という言葉があります。訳せば、「少ないほうがより豊か」。過剰なものより、ミニマルなデザインこそ美しい、と唱えたものであります。ここ最近のサステナブルファッションの流れでも、大量に 生産して、大量に消費することより、大切なのは厳選された素材を使って、丁寧につくり、長く着 る、という考え方です。この傾向は、 富裕層だけに限ったことではありません。Z世代の中にも、露骨なロゴアイテムより、ミニマルなデザインを好む人が増えている印象です。

 「ブランドばれしない、ロゴが目立たなくて、品質がいいものを知りませんか?」と聞かれることがあります。そういうとき、私が薦めるのは日本の職人ブランド。いま私が愛用しているキーケースは「ポルコロッソ」という福岡のメーカーのものです。栃木レザーの革を使用していて、オプションでイニシャルまで入れてくれます。それでも1万円以下。革は使うほどに味が出てきて、機能性もいい。私にとってのクワイエット・ラグジュアリーです。日本にはそういう職人ブランドがたくさんあります。いい物はじつは身の回りにたくさんある。大切なのは見つける力です。自分だけのクワイエット・ラグジュアリーを探してみませんか?

THIS MONTH'S CODE

#THE ROW

俳優として活躍していた双子、オルセン姉妹が2006年に始めたブランド。アートやインテリアなどからのインスピレーションを受けるそのミニマルなデザインで人気に。

#ミース・ファン・デル・ローエ

20世紀のモダニズム建築を牽引した建築家のひとり。直線と平面を組み合わせた構造に加えて、 “バルセロナチェア”など数々のインテリアの名品をつくり出した。

#ポルコロッソ

福岡発のレザー小物ブランド。革本来の風合いを最大限にいかす「フルベジタブルタンニンなめし」のレザーを素材に、職人の手仕事によって一つひとつ丁寧につくり上げている。






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