illustration: Shogo Sekine

#エモい遺産《東京#CODE》


 いやあ、ユーミンのベストアルバム『ユーミン万歳!』がリリースされてからずっと聴いている日々です。ユーミンこと松任谷由実さんは、私にとって青春そのもの。「ユーミン、私も聴いています!」と、18歳のモデルの子が自分のスマホの画面を見せてくれました。「最近TikTokでも流れてくるから」。なるほど!オリコンのランキングによると、デビューの1970年代から2020年代まで、6つの年代で続けてアルバム売り上げ1位獲得とはまさしく偉業であります。その彼女が「ユーミンさんの曲って、情景が浮かんできてエモいから好き」と話します。古いからかっこいいのではなくて、「エモい」から好き。この言葉を最近よく聞くように思います。

 銀座に出かけたとき。大学時代から通っている大好きな「煉瓦亭」へと向かいました。そこには長い行列。デートらしき20代のカップル、女子二人連れなど、明らかに若い世代が増えてきました。

 「なんか最近、映え疲れで」。これもある20代女子の言葉です。「映えより、エモかな」なんだとか。そう言えば、原宿を歩いていても、映え系のお店が目まぐるしくクルクル変わっている一方で、老舗の「ゴローズ」には長い行列。ちょっと前なら映えカフェブームだったけど、かわいいビジュアルをインスタにアップするより、ちょっとレトロだったり、心動かされる写真のアップが目につくようになったなあと感じるのです。

 DJでありインフルエンサーのマドモアゼル・ユリアさんは、よく喫茶店巡りをしています。地方に出かけたときは、その土地のレトロな喫茶店を探索。そして着物スタイリストでもある彼女は、素敵な着物を着て喫茶店で写真を撮ったりしています。それは映えというよりもっとエモーショナルな写真です。

 Z世代がいう“エモい”に希望を感じます。ただ新しいだけだったり、高級なだけだったり、見栄えがいいだけが正解じゃない。また、古いというだけでエモいのではなく、そこには残るだけの理由があるのです。

 最近、永谷園のCMを見て驚きました。あのお茶づけの発売70周年を記念してリバイバルしているこのCM。1997年に放送された映像をそのまま放映しているのです。お茶づけをガッツリかきこむ青年。じつは広告代理店勤務で、デモとして撮影した映像が本番に使われたことで当時も話題に。新しさを求めがちなCM業界ながら、あえて過去の胸熱な映像を採用する。これぞエモい遺産の活用だと思います。

 古ければなんでもエモいのではなく、そこには露わな感情や、心震わせる感動があるもの。なぜ名画『モナ・リザ』の微笑みは500年以上たった現代でも人々を魅了するのか? そこには長く残るだけの卓越した「美しさ」が存在します。表面的な新しさや見た目ばかりが先行しがちだった現代に、若い世代から“エモい”の大切さを教えられるように思います。「進化」とは「新たなものを生み出すこと」だけではないということ。これから本格的にインバウンドも再開し、東京の再開発も進行中です。その一方で古い街が壊されたり、伝統ある店が後継者不足などで閉店するのを見ていると、胸が苦しくなります。これまでも、これからも。人が求める心に刺さるエモい遺産を残したい。そのレガシーが失われないようにしたいと。ユーミンとZ世代から、未来に何を残すべきか、考えさせられますね。

THIS MONTH'S CODE

#煉瓦亭

明治時代の創業以来、長く銀座で愛される洋食レストラン。オムライスもトンカツもここが発祥(諸説あり)と言われる老舗。

#ゴローズ

1972年に、原宿に移転オープンして以来、不滅の人気を誇るシルバーアクセサリー&革細工の名店。厳正な販売ルールがあることでも知られる。

#マドモアゼル・ユリア

DJ、モデルなどとして活躍。着物への造詣が深く、スタイリング、着物着付け教室なども開催。






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