■料理は探求と発見の場
「おなかが すいたから、みんなで おいしいもの つくろう。」
昭和55年に福音館書店から刊行された『サンドイッチつくろう』(さとうわきこ作)は、身近な材料を使った料理の絵本です。ゆで卵にいり卵、ポテトサラダなどの料理の手順と方法が、楽しい絵と言葉で描かれています。
わが家の子供たちが小さかった頃、この絵本をきっかけに、一緒に何度もサンドイッチを作りました。
初めての日、息子は卵と水を入れた鍋が沸騰していく様子に見入りました。鍋底から現れる泡や、湯気や音、鍋の中で動く卵の様子など、水温の上昇とともに現れ変化していく事象を不思議がり、面白がりました。それ以来、私が料理をするとき、横で鍋の中をよくのぞきこむようになりました。「どうして泡が出てくるの?」「鍋の中でお野菜がジャンプしてるね」「なんで?」。子供は身の周りのさまざまなモノや事象に“科学する眼差(まなざ)し”を向けていきます。
また、大人も子供の問いから、「なんでだっけ?」「昔、学校で習ったよな」と探求心が呼び覚まされるのではないでしょうか。
大人にとって、料理は日々繰り返される作業ですが、子供にとってはさまざまなモノや事象との出合いや発見の場となります。
息子は成長とともに、茹(ゆ)で時間によって卵の黄身の状態が違うことに気付きました。彼なりに仮説をたて、慎重に時間を計りながら温泉卵、半熟卵、ゆで卵と試行錯誤を繰り返し、自分のお気に入りの状態を探求していきました。その姿は実験そのものであり、自らの食の世界を豊かに広げていくことでもあります。
絵本では、パンに自分の好きな具材を好きなようにのせ、サンドイッチをつくります。素材を組み合わせることで予想通りの味や予想外の味の楽しさ、相性を知ることができます。
料理の「料」と、科学の「科」は共に計量に関する意味の「斗」が使われていることに気付かされました。(国立音楽大教授・同付属幼稚園長 林浩子)