『さくら』(長谷川摂子文、矢間(やざま)芳子絵・構成)

【絵本に再び出会う】「さくら」 驚き、不思議さの宝庫

, コラム

 大人にとって、満開の桜が散る様子は、美しさとともにどこかはかなさを感じますが、子供たちは喜々として、花びらを追って集めたり拾ったりします。

 かつて勤務していた幼稚園の園庭に桜の木がありました。子供たちは、集めた花びらを砂の上に飾って桜ケーキを作ったり、黒い画用紙に並べて絵を描いたりします。しばらくすると、落ちてきた萼片(がくへん)に覆われた雌しべと雄しべを見つけ、「バカボンパパの鼻毛~」と面白がりました。

 葉が育つと木に緑色の玉がつき、やがて赤くなって落ちてきます。熟した実をつぶして水を加えると、色水の出来上がり。水の量によって色の濃淡ができることに気づき、桜ジュースやワイン屋さんが始まりました。色水作りを通して、色が染まることを発見し、どんな紙や布ならきれいに染まるかを試しました。

 夏には木に集まるさまざまな虫と出合い、秋になると赤や黄色に変化していく葉の色や形を不思議がります。色のグラデーションの美しさに魅せられ、絵の具を混ぜたりにじませたりして、色への関心を広げました。冬になると木を見上げ、しみじみ「はげつるりんこになったなぁ」「春になったらまた花を咲かせてね」と、季節の循環を感じ取る姿がありました。

 子供たちは1年を通して心を動かしながら桜とかかわりました。桜からの働きかけを受け入れ、対話しながら桜を知り、かかわりを深めていきました。桜は、子供たちの見つける面白さや、驚きや不思議さを生み出す学びの宝庫でした。

 平成17年に福音館書店から刊行された『さくら』(長谷川摂子文、矢間(やざま)芳子絵・構成)は、桜の1年が繊細な絵と桜自身の一人称の言葉で語られています。読み終えた後は、桜を身近でいとおしい存在に感じるようになります。科学絵本は、観察のまなざしで知識を得るのではなく、身近な世界を丁寧に見つめ、かかわり、心を寄せながら関係をつくっていくきっかけをくれます。(国立音楽大教授・同付属幼稚園長 林浩子)


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