『なつやすみ虫ずかん』(稲田務・絵、宮武頼夫・文)

【絵本に再び出会う】「なつやすみ虫ずかん」 「見入る」から「知る」へ

, コラム

 平成4年に福音館書店から刊行された『なつやすみ虫ずかん』(稲田務・絵、宮武頼夫・文)は、身近な虫たちが、精緻な絵で見事に描かれた図鑑絵本です。見開きの左側ページには、虫を上から見た、まるで本物のような質感の絵が、右側にはグレーの線画で虫を裏返して見た姿や顔など、1匹の虫がさまざまな角度から捉えられています。そして、その特徴が易しい文章で説明されます。

 虫好きのレイ君は、毎日、毎日この絵本を手に取り、色々な虫の形や姿、色や模様、柄や質感の面白さに見入りました。

 「ぼくは、カブトムシになりたい」。3歳の頃のレイ君にとって、虫は憧れの存在でもありました。お父さんと一緒に行く虫取りは、大好きな時間でした。

 成長するにつれ、レイ君はより緻密に虫たちの姿に見入りました。トンボは食べ物の虫を捕まえるとき6本の足をかごのように丸めること、足の先が2本に分かれているのは、しっかりと何かにつかまるためだということなど、虫の部位の形態の意味や機能にも関心を持つようになりました。この頃から本格的な自然図鑑に見入り、さまざまな種類のトンボの違いを見つけることを楽しんでいきました。

 あるとき、レイ君は保育園の壁面に飾られていた紙のトンボを見て、「先生、これはトンボじゃない! トンボの翅(はね)はくっついてなくて、4枚だよ。それに、透けてるよ」と言いました。レイ君は繰り返しトンボに見入ることで、正しく知っていたのです。

 幼い頃、夢中になって対象に見入り、関わった経験は、その後、自分が生きている世界の本当のことを知りたいと思う姿につながっていきます。

 この絵本のあとがきに、「どの むしを みても うつくしい いろや もようだね」と記されています。レイ君が繰り返し見入ったのは、虫の中に「うつくしさ」を見出していたからなのでしょう。そしてレイ君にとって、虫は仲良しの友達だったのです。(国立音楽大教授・同付属幼稚園長 林浩子)


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