泳ぐのは人間だけじゃない。猫や犬、豚や虎…動物が泳げるのは「からだが みずに うくからだ」と、泳ぐことの原理に気づかせてくれるのが、昭和56年に福音館書店から刊行された『およぐ』(なかの ひろたか作)です。
クラスでこの絵本を読んだとき、動物も人間も水に浮くのは体の中に浮袋があるからだと知った子供たちは、自分の体の不思議に驚き、「なるほど」「そうなんだ」と納得しました。
絵本に描かれている、水がちょっと苦手な男の子のリアルな表情や体の動きに、子供たちは自分を重ねていきます。それは、水の中が断面に切り取られ、男の子の姿が真横から描かれていることで、水中の体の感触や様態、水の動きやしぶきなど、子供たちがこれまで体を通して感じ入った水とのかかわりが蘇(よみがえ)ってくるからでしょう。水の中と水の外との違いまでもが繊細に描かれ、表現する絵の力を感じることができます。
潜ってみたけど、顔が水に濡(ぬ)れるのは怖くて、「いやだ」。でも挑戦したい、という絵本の中の男の子に共感しながら、子供たちは読み進めていきました。
男の子が水底から足を離し、体を横にしていく絵本の場面では、男の子と同じように自分も手を上にあげてシミュレーションする子供もいました。「うかんだ、うかんだ」「ばたばたばた」と、画面から男の子が消え、裏表紙、そして、表表紙へと続く装丁を子供たちは面白がりました。水しぶきをあげながら、水の中でしっかり目をあけて泳ぐ男の子は力強く、自信にあふれています。
この絵本を読んだ後、プールで水を怖がる子に、「体の中に浮袋があるんだから大丈夫」と、別の子が声をかける姿がありました。幼い子供たちでも、“理屈を知る”ことで安心、納得して、やってみようと挑戦していくのです。
同じ作者の絵本『ぞうくんのさんぽ』(昭和52年、福音館書店)も一緒に読むと、水の面白さを味わうことができます。(国立音楽大教授・同付属幼稚園長 林浩子)