『14ひきのおつきみ』(童心社)

【絵本に再び出会う】『14ひきのおつきみ』 月を待つ

, コラム

 もうすぐ中秋の名月です。長年、子供たちに愛され、読み継がれてきた、いわむらかずおさんの「14ひきのシリーズ」に『14ひきのおつきみ』(童心社、昭和63年)があります。

 物語は、雑木林に暮らす野ねずみのきょうだい9匹が、木の枝を切り、運び、組み立てて家の上にお月見台を作るところから始まります。お月見台が出来上がると、10匹目の末っ子のとっくんをおんぶしたおじいちゃん、おばあちゃん、お月さまへのお供えを籠(かご)に担いだお父さん、お母さんも登ってきます。

 ススキを飾り、お団子や栗の実、どんぐりをお供えした頃、まんまるお月さまが顔を出します。

 ぽっかり浮かんだお月さまと、それを見つめる14匹の家族の後ろ姿は美しく幻想的です。

 「おつきさん ありがとう、たくさんの みのりを ありがとう、やさしい ひかりを ありがとう」と、月の神秘的な力と実りへの感謝を込めてお月さまに手を合わせ、家族みんなでお月見を楽しみます。そして、14匹は静かに眠るのです。

 昼から夕方、夜への時間の流れと、月の光の変化が繊細な色で表現されています。読者はその美しさに引き込まれていき、その場の空気や音までを感じることができます。

 物語の背景に丁寧に描かれている植物や生き物、野ねずみたちがお月さまへ感謝する姿に、自身が雑木林に暮らす作者の自然への深い愛情と畏敬の念が読み取れます。

 物語の中に描かれている14匹の表情や動きから、しっかり者のいっくん、面倒見の良いさっちゃん、やんちゃなろっくん、ぬいぐるみが好きなくんちゃんなど、それぞれの個性や心もちがうかがえるとともに、家族の会話が聞こえてくるようです。

 雑木林で仲良く暮らす野ねずみの家族の姿は、自分の家族とともに、私たちが気付かないけれどともに暮らしている植物や生き物へ、そっと思いを馳せていくきっかけを与えてくれます。

 今年の十五夜は、ゆったりとした気持ちで空を見上げ、誰かと一緒に月を味わってみませんか。(国立音楽大教授 林浩子)


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