2001年、山西省の中都市・大同で、裏社会を生きるビンとチャオ。ビンは仲間たちからの信頼も厚く、さらに上へのし上がりたいと願っている。チャオはビンの恋人だが、周囲の男たちとも対等に語り合い、まるで兄たちに可愛がられる勝ち気な妹のよう。怖いもの知らずで野心にあふれた恋人たち。北京五輪開催が決まり、中国が新しい未来に踏み出すなか、彼らもまた世界を自分たちの手におさめようとしている。だが一発の銃声が、二人の未来を奪う。
ビンとチャオは、いわゆる腐れ縁の関係。相手を愛しては憎み、近づいては反発しあい、それでも引き寄せられずにいられない。別れと再会をくり返すなかで、時代は2001年から2017年まで移り変わる。
街の風景が大きく変わり、二人の立場や力関係も変化する。人々の価値観や生活も昔とは違う。一度すべてを失ったチャオは、時代の波にもまれながら、大同へ戻り、どうにか自分の居場所を見つける。一方のビンは、過去の栄光にしがみつき、もう帰れない青春の影のなかでもがき続ける。
かつての勝ち気な妹は、今や慈悲深い姉となり、故郷へ戻ってきたビンを受け入れる。だがチャオは、ただ男を待ち続ける健気な女ではない。彼女の行動はある意味で献身的だが、それが愛情なのか、同情や意地なのかはわからない。ヤクザ者たちが尊ぶ、仁義に近い感情かもしれない。
『帰れない二人』には、二つの視点が同居している。現代の中国社会の劇的な変遷をたどる大きな視点があり、一方で、男女二人の愛憎劇を捉える小さな視点がある。圧倒されるほど大きな川や山、工場群といった巨大な風景があり、そのなかで小さく無数の人間たちがうごめいている。その巨大さと微小さの合間で、カメラは常に揺れ動く。壮大な映像を通して、社会の片隅を生きる人々の小さなドラマが描き出される。
やがて私の目は、どうしようもなくチャオに惹きつけられる。彼女の強さ、寛大さに魅せられる。そうしてこれが、一人の女の孤独な闘いを描いた女性映画でもあることに気づく。カメラが記録した17年という時間をかけて、私たちは一人の女性の顔にたどり着く。呆然と佇む彼女の顔には、恋人たちが生きた時間が刻まれている。

This Month Movie『帰れない二人』
2001年、中国・山西省の大同で、ヤクザ者のビンとその恋人チャオは、仲間たちと共に裏社会で生きていた。だがビンがチンピラに襲われ、彼を助けようとしたチャオは刑務所へ収監されてしまう。5年後、刑期を終えてビンを訪ねたチャオは、彼が昔とはまるで別人になったことを知る。さらに数年後、二人はまた再会するが…。激変する中国社会を背景に、17年間をかけて紡ぎ出される男女二人のラブストーリー。
Bunkamura ル・シネマ、新宿武蔵野館ほかにて公開中。
監督:ジャ・ジャンクー
出演:チャオ・タオ、リャオ・ファン
旧作もcheck!
『青の稲妻』
『帰れない二人』のチャオというキャラクターは、監督の過去作『青の稲妻』『長江哀歌』でも同じ女優チャオ・タオが演じていた女性たちと、奇妙な点(衣装や髪型、名前)で繋がっている。本作に魅せられた人はぜひこの過去作も見てほしい。

監督:ジャ・ジャンクー