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「水の精霊」に取り憑いた、悲しくも美しき宿命の物語《映画でぶらぶら》


 ウンディーネ。それは、人間の男に恋をした、美しき水の精霊の名前。その話は、1811年に書かれたフケーの小説をもとに、さまざまな作家によって形を変え、継承されてきた。愛した男の心を手に入れられず、最後は海の泡と化すアンデルセンの『人魚姫』もそのひとつ。ディズニー映画のようなハッピーエンドもあるが、禁じられた恋の行く末には、いつも不穏な結末が待ち受ける。

 『水を抱く女』は、この「水の精」神話を、新しい解釈で翻案する。監督は『東ベルリンから来た女』等を手がけた、ドイツの名匠クリスティアン・ペッツォルト。本作では、現代のベルリンを舞台に、残酷な因縁に囚われたウンディーネの物語を紡ぎ出す。

 現代のウンディーネは、一見ごく普通の女性に見える。冒頭、恋人から一方的に別れを告げられ涙を流すさまは美しいが、特殊な存在には思えない。だが次の瞬間、彼女は「そんなことは絶対に許されない」と呪いの言葉を呟く。悲痛さに満ちたその顔を見れば、彼女がただならぬ何かを背負っているらしいと、誰もが気づく。

 恋人を失い動揺するウンディーネの前に、クリストフという名の男が現れる。潜水作業員である彼は一目で彼女に恋をし、彼女もまたこの優しく親しげな男に惹かれていく。新たな幸福の兆し。しかし得体のしれない不吉さが、じわりじわりと恋人たちにしのび寄る。まるで、知らぬ間に足元を濡らす水たまりのように。

 現代によみがえった水の精霊。けれど映画は、彼女を怪物めいた存在としては描かない。ウンディーネは男を惑わす悪女でもなければ、愛に翻弄される悲しき美女でもない。クリストフと戯れるさまはじつに無邪気で、恐れを知らぬ子供のよう。そもそも彼女は仕事と住居を持ち、自力で生きる力を持った女性だ。それにもかかわらず、やはり神話と同じ道を辿ってしまうのはなぜなのか。愛のためか、逆らえぬ定めのせいか。

 画面のなかでは、凶暴な風が吹き荒れ、水のうねりが襲いかかる。そうして人々を深き水の底へと誘い込む。これは、ひとりの女に取り憑いたある宿命の物語。その無慈悲さに、女は抗い、ひとり闘いを挑む。悲しくも美しき女の宿命に、私たちは恐れ慄きながら、呆然と見惚れてしまう。​​​​​​

metro217_undine_sub1.jpg主演の二人は、ペッツォルト監督の前作『未来を乗り換えた男』に続いての共演。両者とも強い存在感で画面に緊張をつくりだす。

This Month Movie『水を抱く女』

 博物館でガイドとして働く歴史家のウンディーネは、恋人のヨハネスに突如別れを告げられ、大きなショックを受ける。そんな彼女の前に、心優しき潜水作業員のクリストフが現れる。急速に惹かれ合う二人は順調に愛を育むが、やがてウンディーネは、自らの宿命と立ち向かうことに…。フケーの中編小説で有名な「水の精」の神話をもとに紡がれる、狂おしい愛と宿命の物語。

3月26日(金)より新宿武蔵野館ほかにて公開。
監督:クリスティアン・ペッツォルト
出演:パウラ・ベーア、フランツ・ロゴフスキ


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