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刹那的に交わった二つの世界が昇華され、物語が誕生する《映画でぶらぶら》


 ひとりの女性が、じっと目を凝らし、世界を見定めようとしている。ここには、「私」とはまったく異なる階級の人々が住む場所があるらしい。両者は本来相容れない。だがあるとき、二つの世界はたしかに交わり合う。フランス出身のエヴァ・ユッソン監督が、グレアム・スウィフトの小説を映画化した『帰らない日曜日』は、孤児として生まれたジェーンの視点で、三つの時代を行き来する。

 一九二四年のイギリス、メイドとして働くジェーンは、名家の跡継ぎであるポールと恋仲にあるが、彼にはエマという婚約者がいた。二十数年後、ロンドンで小説を書いているジェーンは、かつてのポールと自分の関係に思いを馳せる。さらにその三十数年後、作家として自立した彼女は、ひとり原稿を書き続けている。

 半世紀近くもの時間を扱いながら、物語は常に、ある一日に引き戻される。ジェーンとポールが最後の逢瀬を楽しんだ、ある日曜日のひととき。その鮮烈な思い出とともに、ジェーンはその後長い時間を生きていくことになる。ジェーンが仕えるお屋敷の人々は、みなイギリスの上流階級に属し、豪華絢爛な家具や衣装に囲まれている。だがその目はみなひどく虚ろだ。深い絶望の色に、胸をつかれる。空虚さの正体は、絶対的な喪失感。戦争は多くの若者たちの命を奪っていった。それ以来、屋敷の人々はみな、大事な息子や恋人を亡くした悲嘆とともに生き続けているのだ。死は、遺された人々の心を蝕み、生き残った者の運命を決定づける。やはり戦場で兄たちを亡くしたポールは、家を守るため、親が決めた結婚をし弁護士になるしかない。

 過去の幻想にとらわれ、身動きのとれない亡霊のような人々。そのなかで、皮肉にも、親も財産も身分も持たないジェーンだけが、自ら人生を切りひらく力を持つ。だからこそポールは彼女に惹かれ、一方で、ジェーンは彼の空虚さに引き寄せられたのだ。

 あの日曜日、二つの世界は刹那的に交わった。その瞬間を、ジェーンは決して忘れない。時間を経るごとに、彼女もまた、痛ましい喪失をいくつも体験する。それでも彼女は、虚ろな目をせず、書くことで世界とのつながりを見いだそうとする。そうして、物語が誕生する。

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小説家となったジェーン。これは、女性が天職を見つけ自立するまでの物語でもある。

This Month Movie
『帰らない日曜日』

 第一次世界大戦後のイギリス。年に一度、国中のメイドに里帰りが許される「母の日」に、孤児院育ちで帰る家を持たないメイドのジェーンは、秘密の恋人ポールからの誘いで、彼の住む豪邸を訪ねる。つかの間の幸福な時間を過ごす二人。だが身分違いの二人の恋は、思いもよらぬ結末を迎えることに。そして数十年が経ち、ジェーンはあの日曜日の思い出を、小説にしようとしていた。

5月27日(金)より新宿ピカデリーほかにて公開。
監督:エヴァ・ユッソン
出演:オデッサ・ヤング、ジョシュ・オコナー、コリン・ファース


旧作もcheck!

『田園の守り人たち』

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©2017 - Les films du Worso - Rita Productions - KNM - Pathé Production - Orange Studio - France 3 Cinéma - Versus production - RTS Radio Télévision Suisse

第一次世界大戦下のフランス、大事な人たちを失った女たちのドラマ。彼女たちはどのように喪失と向き合い、再生するのか。

監督:グザヴィエ・ボーヴォワ
DVD:4180円
発売:ニューセレクト株式会社

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