記念撮影をする家族。父ジェイクと母カイラ、そしてヤンとミカ。あたかも四人家族のようだが、ヤンは、養子のミカに中国人としてのルーツを教えるため、夫婦が購入した人型ロボット「テクノ」だった。そしてヤンの体は、ある日突如として動きを止めてしまう。
前作『コロンバス』が話題となった、ソウル出身のコゴナダ監督の最新作『アフター・ヤン』は、近未来を舞台に、ロボットと暮らす家族の日常を描いたSF映画。とはいえ、前作で建築映画と青春映画を見事に融合させたコゴナダ監督らしく、本作もまたSF映画というジャンルの枠を軽々と飛び越え、私たちを心地よい驚きの中へと導いてくれる。
ロボットのヤンを兄のように慕っていた幼いミカは、彼の突然の故障に大きなショックを受ける。ジェイクは娘を慰めようと奮闘するが、中古で購入したヤンの修理は思った以上に難航する。そんな夫と娘の様子を、カイラは心配そうに見つめている。
修理方法を探していたジェイクは、じつはヤンの体に記憶メモリが埋め込まれていることを知る。旧式のテクノに備わった機能により、ヤンは日常で気に入った場面を、いつもこっそり録画していたという。自分たちが知らぬ間に一体何を記録していたのかと、ジェイクは恐る恐るメモリを覗くことに。
そこに残されていたのは、数秒間の短い映像の数々。親しい人たちとの日常風景や何気ない会話。街で見かけた美しい景色。そこには、見知らぬ若い女性の姿もあった。彼女は誰なのか。なぜヤンはこれらを大事に記録していたのか。ジェイクは探偵さながらに映像の謎を追い始める。
ヤンが遺したのは、SNSに日々アップされるもののように、とりとめのない映像群でしかない。けれどそれらが、ジェイクたちの人生観を、ゆっくりと、だが決定的に変えていく。ヤンがどこからやってきて、何を記録したのかを知ることは、言い換えれば、自分たちはどこから来て、日々何を見ているかを知ることでもあるからだ。
家族とは何か。人々のルーツはどこにあるのか。死を超えて引き継がれるものは存在するのか。途方もなく壮大な問いが、次々にあふれ出す。ヤンの視線を通して、私たちは、世界の新たな見方を発見する。

アジア人であるとはどういうことか、という物語の根底にあるテーマにも注目したい。
This Month Movie
『アフター・ヤン』
とある近未来の世界。茶葉の販売店を営むジェイクと妻カイラ、中国人の養女ミカの家には、「テクノ」と呼ばれる人型ロボットのヤンが一緒に暮らしている。だがある日、ヤンは突然故障し、彼を兄のように慕っていたミカは悲しみに暮れる。ヤンの修理に奔走するうち、ジェイクは彼のメモリバンクに保存された膨大な記録映像を発見するが…。
10月21日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかにて公開。
監督:コゴナダ
出演:コリン・ファレル、ジョディ・ターナー=スミス、ジェスティン・H・ミン
旧作もcheck!
『コロンバス』

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コロンバスで出会った、韓国系アメリカ人のジンと地元の図書館で働くケイシー。街に点在する建築物を通じて、二人は徐々につながりあう。
監督:コゴナダ
DVD:4180円
発売元:ブロードウェイ