この映画の幕開けは、ひどく不思議だ。雪景色のなか、納屋の前につながれた馬が延々と映し出され、やがてそこに二人の男女がやってくる。なるほど彼らが主人公なのかと思った瞬間、カメラは手前にぐいと退き、窓の内側へと入り込む。そこにいたのは、部屋に寝転ぶ裸の男。どうやらそこは娼館のようだ。飛び起きた男は館内を走り回り、画面が一気に動き始める。
デヴィッド・ロウリー監督が、十四世紀に書かれた叙事詩「サー・ガウェインと緑の騎士」を翻案した本作は、慌ただしい冒頭シーンが示すように、まるで騙し絵のような映画だ。こっちの道かと思った瞬間、まったく別の脇道へと入り込み、観客を翻弄する。主人公は、先ほど娼館で朝を迎えていた男、サー・ガウェイン。伝説のアーサー王の甥だが、まだ正式な騎士ではなく、怠惰な日々を送っている。
事件はクリスマスの夜に起きる。名だたる騎士たちが集う王の宴に、突然「緑の騎士」を名乗る異様な風貌の男が現れ、自分と首切りゲームをする勇気のある者はいないかと持ちかけたのだ。誰もが尻込みするなか、名乗りをあげたのはガウェイン。王の剣で即座に騎士の首を切り落とす。
ガウェインは、一夜にして英雄に。ただし、ゲームにはひとつ条件があった。緑の騎士の首を切り落とした者は栄誉を得るが、一年後、彼を探し出し反撃を受けなければいけない。時が経ち、ガウェインは約束を守るため、渋々緑の騎士を探す旅に出る。
行く先々で、ガウェインは奇妙な人々と出会い、驚くべき体験をする。愛想のよい若者に騙され、自分の首を探す少女と出会い、奇妙な城主に命を助けられ、その奥方に誘惑される。人語を話すキツネや、謎の巨人とも遭遇する。現実とも幻想ともつかない出来事が次々に襲いかかり、これまで見てきた世界が崩壊する。
モラトリアム状態の青年が、自分の語るべき物語=伝説を探す旅。ただし彼自身は、旅の目的や意義に興味がなく、ただふらふらと彷徨うだけ。その中心の定まらなさが、映像に不思議な浮遊感をもたらす。だから私たちも、ガウェインとともにふわふわと漂い続ければいい。それこそが、この壮大で、遊び心に満ちた旅のいちばんの楽しみ方なのだから。

凝った美術セットや衣装をはじめ、映像の豪華さを存分に楽しめる一作。
This Month Movie
『グリーン・ナイト』
酒場や娼館に入り浸り、だらけた日々を送るアーサー王の甥サー・ガウェイン。だがクリスマスの日、彼の日常が一変する。王の宴に、「緑の騎士」と名乗る男が乱入し、首切りゲームを提案したのだ。挑発に乗ったガウェインは、即座に彼の首を切り落とす。だが首を切り落とした者は、一年後、緑の騎士を探し出し反撃を受けなければいけない。こうしてガウェインの数奇な旅が始まる。
11月25日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかにて公開。
監督:デヴィッド・ロウリー
出演:デヴ・パテル、アリシア・ヴィキャンデル
旧作もcheck!
『スリーピー・ホロウ
スペシャル・コレクターズ・エディション』

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ロウリー監督が『グリーン・ナイト』をつくるうえで参考にした映画の一本が、こちら。首なし騎士の幽霊譚を題材にした、ゴシックホラー。
監督:ティム・バートン
Blu-ray:2075円
発売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメントジャパン