東京・上野の森美術館で開催中の「ゴッホ展」(産経新聞社など主催)。世界中の美術ファンを魅了する画家フィンセント・ファン・ゴッホの人生に触れたくて、生誕の地・オランダから、終焉(えん)の地・フランスまで、その足跡をたどってきました。
入院中に描いた糸杉
精神的な病で闘病生活を送ることになったゴッホは、南仏の街アルルを離れ、25km東に位置する都市サン=レミ=ド=プロヴァンスの精神療養院に自ら入院しました。施設はいまも現役の病院ですが、一部は観光客向けに公開し、ゴッホの入院していた個室も再現されています。
ゴッホは入院中も部屋から見える風景や、ときには外に出て絵を描き続けました。療養院の近くには、ゴッホの描いたオリーブ畑が当時のまま残り、葉が風に揺れて銀色に光っていました。この頃、度々題材とした糸杉もあちらこちらに。現地ガイドで画家の野澤好夫さんによると、「頑丈で根が真っすぐ下に伸びるので、果樹園や墓地の防風林として好まれています」。庭木としても人気だそうです。
療養院から、ゴッホストリートと呼ばれる約2kmの一本道を歩いて市街地に着くと、偶然にもパレードに出合いました。飾りを付けた馬や、民族衣装を着た女性たちが、華やかに目の前を横切っていきます。長く歩いたので、ここで一休み。地元のチーズと赤ワインをいただきました。南仏は山が多く、牛の放牧に適さないため、チーズといえばヤギの乳からつくられるのだそう。そのうえに載せられていたのは、果物を砂糖などに漬けて作られる「フリュイ・ド・コンフィ」の角切り。こってりと甘くて、ゼリーを少し固くしたような食感。専門店を訪ねると、オレンジやイチジクなど、さまざまな果物のコンフィが並んでいました。
街を散策していて目にとまったのは、雑貨屋にあるカラフルなセミ。野澤さんによると、セミはおいしい樹液のある木にとまる…ということで、「お金に困らないためのお守り」なのだそうです。
約10km北のレ・ボー=ド=プロヴァンスという村は、プロジェクションマッピングで絵画を楽しむ石切場跡の展覧会がフランス人に大人気。来年1月までゴッホの作品と、その創作に影響を与えた浮世絵が上映されていると聞き、少し足を延ばしてみました。音楽に合わせてゴッホの描いたアーモンドの花が散り、麦畑をカラスの群れが渡っていく。北斎の波が天井まで躍動し、最後には提灯(ちょうちん)が天へ昇る。音楽と絵だけの演出ながら、映画を見たような満足感。会場からは大きな拍手と歓声がわき起こりました。ゴッホはもちろん、浮世絵の魅力にも改めて気付かされました。
終焉の地、オーヴェール=シュル=オワーズ
サン=レミの療養院を退院した後、ゴッホはつてを頼り、芸術好きの医師のいるパリの北に位置する街オーヴェール=シュル=オワーズへ。しかし、わずか3カ月足らずで自ら命を絶ちました。
ゴッホが下宿していた「ラヴー亭」から古い街並みを歩き、坂を登りきると見渡す限りに麦畑が広がっていました。1890年7月27日、ゴッホはこの辺りで、自分の胸に向け銃を撃ったそうです。重症を負ってラヴー亭に戻り、29日未明に弟テオに看取られて亡くなります。37歳という若さでした。古い共同墓地の中に、ゴッホのお墓と、寄り添うようにテオのお墓がありました。テオはわずか1年後に亡くなり、妻の意向でここに改装されたそうです。お墓にはゴッホのファンによって、ひまわりなどの花が手向けられていました。
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協力:プロヴァンス地方観光局(https://provence-alpes-cotedazur.com/)
パリ地方観光局(https://www.visitparisregion.com)
フランス観光開発機構(jp.france.fr)
「ゴッホ展」絶賛開催中!
会場:上野の森美術館(台東区上野公園1-2)
会期:2020年1月13日(月・祝)まで。12月31日(火)、1月1日(水・祝)休館
開館時間:9:30~17:00(金・土は20:00、入場は閉館の30分前まで)
入館料:1800円、高校・専門・大学1600円、小・中学1000円
https://go-go-gogh.jp/
フィンセント・ファン・ゴッホ『糸杉』(部分) 1889年6月 メトロポリタン美術館
Image copyright © The Metropolitan Museum of Art.
Image source: Art Resource, NY